motoGP 第4戦中国 [**Valentino ROSSI]
ミスをすら帳消しにするだろう最高速は、コーナリングに多少の未熟があったとしても、必ずやってくるストレートで不安を消化させる。そのことがライダーに余裕を与え、レースを成功させ、自信を生み出す。自信は力になる。彼の成長を促す。
ジョッキーは馬に育てられる。育てられた騎手は、馬にお返しをする。成長の止まらない存在は、いくつになっても経験を積んでもパートナーから何かを得ることを忘れない。
名手と呼ばれ、今なお多くのジョッキーから尊敬のまなざしを向けられる岡部幸雄元騎手と無敗で3冠を制したシンボリルドルフとの物語は、聞けば聞くほど面白いものだ。
新潟の芝1000メートルをデビュー戦に選んだ陣営は、手綱を取る岡部騎手に「1600の競馬をしてくれ」と頼んだと言う。有名なエピソードのひとつだ。
芝の1000メートルのレースで、1600メートルの競馬をする、というのは、競馬をよく知らない方には理解しづらいかもしれないが、人と同じく考えてもらえればわかりやすいだろうか。
競馬における1000メートルは、人間にすれば50~100メートルの短距離走である。400メートルを走る場合は、それなりにペース配分が必要になるが、50や100メートルではいかにトップスピードを長く維持できるかが勝負になる。距離が短いのだから、早くスピードを乗せなくてはならない。
だからゲートが開いた瞬間、まずはいい位置を取るべくダッシュをかける。現在の新潟競馬場では、芝1000メートルはメインスタンド前の直線コースを走る。徒競走と同じだ。
しかし、当時はまだコースを走っていた。コーナーがあるぶんやはり、いいタイミングと場所で走りたいというものだ。中長距離のような駆け引きはないにしても、抑えざるを得ない場面は出てきてしまう。
それでも。1000メートルで1600の競馬、というのはムチャな話である。それもまだ3歳(当時の馬齢表記。現在では2歳)の、これが初めてのレースとなる子たちが走るのだ。言葉で説明できないのだから、レース前にそれを納得させることはできない。
群れで過ごす動物だから、基本的には置いていかれたくはない。顔に飛んでくる芝や土で嫌になってしまう子もいる。すべてを超越して、岡部騎手とシンボリルドルフは勝たなくてはならなかった。野平調教師は、それでも勝てると信じていた。
皐月賞を勝ち、ひとつめの冠を手に入れる。そして迎える東京優駿(日本ダービー)。岡部騎手はまだ、“ダービージョッキー”の称号を持っていなかった。
無敗でクラシック1冠を獲ったパートナーに、ダービーを期待するのは当然のことだった。しかし、彼はレース途中、向こう正面を進むシンボリルドルフの鞍上で『ああ、この馬でもダメなのか』と思ったという。
いつもと手ごたえが違う。背中の動きが違うと感じた。手綱をしごいても反応してくれない。
ガッカリして思わず。力が抜けそうになる。
3コーナーを回り、最終コーナーを目指す馬群の中で。
シンボリルドルフは岡部騎手に言った。
「黙ってジッとしてればいい。俺を信じろ」と。
自分が焦ってどうなるものか―。
どうにもならないのだ。走るのは馬なのだ。シンボリルドルフが走るのだ。
直線に向き、信じられない脚を見せる。どよめくスタンドが別世界のようだ。着差は1馬身3/4でも、圧倒的だった。完勝だった。
私が見てきた彼は、いつもそんなふうだった。圧倒的、と言っても大差をつけて勝つわけではない。日本での最後のレースとなった有馬記念で4馬身差をつけたのが最大だろう。3冠も、皐月賞が1馬身1/4、ダービーは前述の通り、菊花賞は3/4差まで詰められている。
わかっていて勝つように思えた。シンボリルドルフ自身が、レースの勝敗を見極めて走っているように思えてならなかった。だから悔しかった。どんなに頑張って走っても、勝てない。次こそは!という期待を強く持つことができない。
私はミスターシービーが大好きだったのに―。
マシンは馬とは違うけれど、乗り役との相性やコミュニケーションでやはり走りは違ってくると思う。“騎手が勝たせる”レースがあるように、ライダーの腕で勝つレースもあるだろう。その逆に、ただひたすらマシンが走り、ひたすら馬が強いレースも存在する。
しかし、それだけでは長いシーズンを戦い続け、勝ち星を増やしていくことは難しい。いくらマシンが速くても、ライダーがミスをすれば、一瞬ですべてが終わってしまうこともある。能力が抜けて高い馬がいても、レースに最高の状態で臨めなければ、調子のいい子に負けることもある。ジョッキーが判断を誤れば、馬には大きな負担がかかってしまう。
マシンとライダーがピタリと合致したときに、その強さ速さは他を圧倒するだろう。
メカニックはマシンを最高の状態で送りだし、ブリヂストンは申し分のないタイヤを用意した。ピカピカに輝く赤いドゥカティは、若いライダーに余裕を与え、勝利することで自信を与えた。
負けることが大嫌いなアスリートにとって、すべての努力は勝利のためにある。勝利がすべてを浄化する。自分のやってきたことが正しかったのだと思える。それは自信になる。自分は強いのだと思える。それも自信になる。
自信は余裕になり、焦りを抑える。瞬時の判断が求められ、それに対応する行動を要求される世界で、焦りを抑えることは非常に重要だ。パニックになったら終わり。それは何もかもの終わりに直結する。
ミスをしないケイシーを、ドゥカティが育てている。
ケイシーはお返しに、勝利という最高のプレゼントを用意する。
「今日は僕たちにとって不利なレースだった」と、サバサバした口調で話す。
コーナーで抜くことができても、ストレートで必ず抜き返されてしまうのだ。為すすべなく。ただ黙って最高速の違いをすぐ横で体感するしかないまま。
ロサイルで経験した、あの無力感をヴァレは上海でも味わうことになった。どれほど勝ちたかったろう、と思うと悔しくてならない。ストレートで10キロ近いスピードの差は、さすがのヴァレンティーノ・ロッシをしても、カヴァーすることができなかった。
最初からガツガツ飛ばし、ハードなブレーキングで突っ込み、スライドさせて曲がりこんでいく。それをためらうことなくできるのは、ブリヂストンの為せる技なのか。昨年までのミシュランは、ヴァレがそういう走りをするからだろうけれど、こなれてくる中盤以降にその性能をフルに発揮した。ほかのライダーがタレてくるあたり、ヴァレはひとり、そのスピードを増していったのだ(一昨年は特に顕著だったと思う)。
その当時から、ブリヂストンはタレないな、という印象を持っていた。しかしその堅すぎると思われる丈夫なタイヤは、レース序盤をうまく走れないような感じだった。最良の状態になるまでに相当な時間を必要としているようだった。
しかし、昨シーズンからまた少し印象が変わった。予選タイヤが結果を出し始めたのだ。“一本勝負”になる予選では、とにかく最初から最後まで最高の状態でなければならない。しばらく走って様子見て、では話にならない。
きちんとこなれるタイヤを作ることができるようになった証拠だ。そして今年、ブリヂストンは毎回結果を出している。
上海でヴァレンティーノが勝てなかった理由はひとつだ。エンジンパワーの違い、これだけだろう。
あと5キロ、最高速を上げられれば、ヴァレの腕ならドゥカティを上回ることができるかもしれない。ケイシーの落ち着きは、『ストレートで絶対勝てる』という100%の自信から来るものだ。ここを覆すことができれば、彼にも焦りが生まれる。サイボーグのような走りではなくなる可能性がある。
その時に、頼りないタイヤでは困るのだ。マシンとライダーの、すべてがベストでなければ勝ち続けることはできない。チーム状態が最高のドゥカティは強敵だ。彼らのこれまでがすばらしい成果を生み出している。しかし、このまま黙って負けているわけにはいかない。
そしてニッキー。
今回は不運なアクシデントだったが、ラグナ・セカへ向けてそろそろエンジンを回さなくては。800ccに合わせ(?)、小型化されたマシンでは窮屈そうな印象は否めないが、それを跳ね返して彼は走らなければならない、そして勝たなくてはならない。彼はたったひとりのチャンピオンだからだ。
マグレでは年間王者にはなれない。強い気持ちで、前に出てほしいと思う。
次戦からヨーロッパラウンドだ。来月は毎週レースがある。
「シーズンはまだ長いよ。次からは僕の好きなヨーロッパだからね」
フワリと笑う口元でも、瞳はそれほど動いていない。20ポイントは大きい、とも言っていたけれど、それで満足できるひとでは全くない。初めて表彰台に上がる、嬉しさを隠し切れないホッパーにばかり構い、ケイシーの方をほとんど見なかったことからも、ヴァレの悔しさがわかる。
「諦めたくなかったからね。最後までバトルに行ったんだ」
彼がトップを走っているときの背中より、誰かを追いかける背中を愛しているのはどうしてだろう。
“絶対に諦めない”―彼はいつもそう言って走っている。
私の中で
シンボリルドルフは、今もなお最強馬だ
ディープインパクトと出会っても
その気持ちは変わらない
こんにちは。
DUCATIへ移籍が決まった時に、ケーシーが移籍理由を「だって、ワークスマシン...」って言ったとか言わなかったとか...を何かで読みましたが、昨年は、MotoGPクラスデビューはした物の、ホンダのサテライト(ワークスよりパワーやパーツ供給で不利)で、冬季テストもロクにこなさないで、シーズンを迎え、速いけど妙な所で転倒とかがつきまとっていましたから、今年は雲泥の差ですしね。
オンボードに映るエンジンの回転数でも、最大回転数で1,000回転近く回せない(パワーが出ない)マシンでは、いかな天才ヴァレをもってしても、辛い戦いになってますね。
これで終わる事がないのが、レースの恐い所ですが、ミシュランが去年のBSみたいに予選は速いけどって事になってきてるのが気になる所です。
by HIRO (2007-05-10 02:08)
今年はMOTOGPをあまり見られなくなってしまったので、
柊さんのレポートを楽しみに読んでます。
私もヴァレ好きなので(ヴァレがいなかったらレースも見てないしバイクにも乗ってなかったです^^;)ヴァレ好き目線なレポートにいつも感情移入してしまいます。
今日も柊さんのレポートを読んで、ヴァレの悔しさを思うと熱いものがこみ上げてきてしまいました・・・
会社なのに・・・(笑)
by ソシガヤンヤン (2007-05-10 09:18)
HIROさん~、こんばんは♪
ケイシー、怖いぐらいですね。ドゥカティに移籍する、って時からもう。“合ってるだろうな”と思っていたのですが…。ロサイルで嫌というほど思い知らされ、上海では、その成長ぶりが怖いです。
とにかく今はドゥカティがすばらしいデキで、ケイシーはそれを惜しみなく出すことができている状態です。マシンとライダーがピッタリ合っているので、覆すのは本当に難しい。
ヤマハは、まずエンジンパワーを上げないと。フランスでメドをつけたいけれど…。来月になると移動だけで終わりそうだし。
ムジェロが勝負だと思います。ここをヴァレが死守するなら、まだ可能性がある。でも落とすようなら………今季はもう追いつけないかもしれない。
絶対に! 見逃せませんわッ
そしてミシュラン。
コーリンが失速したのはタイヤだと思っているので。ダニーがグズグズしているのもミシュランが一因だと思います。
ニッキーについては、マシンとの相性がまだしっくり来てないのだなあ、と。小型化はダニーに合わせたみたいで、きちんとした待遇を受けられているのか心配です。
『去年のブリヂストンみたいに』
激しく同意!!!
ソシガヤンヤンさ~ん、こんばんは♪
ヴァレンティーノ・スキーなのですねッ!!! 嬉しいですうううvv
ワタクシ、ヴァレひとめぼれだったですわ。雑誌で見て、何てかわういひとなのッ!!って。こんなひとが地球にいたなんて!ぐらいの衝撃。
オートバイレーサーだなんて全然知らなくて。連れがレース好きで、ちょろり見てみたら、あああッ ヴァレンティーノ・ロッシ!! 奇跡の再会(勝手な奇跡)
淡々と話したり、残念だけどポイントが取れてよかった、とか言ったり。ケイシーは速かったね、なんて相手を褒めてみたり。
全部。“悔しい。めちゃくちゃ勝ちたかった”に聞こえます。
最初は本当に。ただひたすらかわういひとvvって、ウットリしていて、勝つ姿に素敵~、と舞い上がっていたのですが、去年ヘレスで転倒して、アッセンでは骨折して、ヴァレンシアでもミスして。
それでも絶対に諦めないで、前しか見ないで走るヴァレの背中に、本当にいろいろなことを教えてもらって。
彼のこの背中を愛してるんだ、と深く深く思いました。
なので(とか言ってる場合じゃないんですが…汗)。
唯一勝ったレースのレポがないんです(どーん)
なんというか余裕な勝利だったので。危なげなかったし。いや、そういうふつうじゃない余裕をカマすヴァレンティーノって、もうめちゃくちゃすごいと思うんですけど(照)
ほっぺたをピンク色にして、ウキャキャキャキャ、とコメントするヴァレに早く会いたいですvv
by 柊なお (2007-05-11 00:12)