夜から朝へ [VARIOUS DAYS]
少しずつ心配ごとが、小さくなってきていたのに。
また新しい心配ごとが、出てきてしまった。
楽しいことばかりを望んでいるわけではないけど。いつも必ず何もかもが、ハッピーな出来事を連れてきてくれるとは限らないのだけど。
そんなことわかっているのだけど―。
土曜日も日曜日も。
予定が入ってしまった。
土曜日は夜勤で、日曜日の午前中から私はスケジュールが詰まっている。
金曜日も夜勤だけど、私の予定:土曜日は夕方から。それなら、と送りがてら深夜のドライヴと、しゃれこむことにした。
30分あまりみれば、余裕で着いてしまう。
夕食の後、楓と散歩をして、少し眠る。のんびり用意をしていたら、携帯が光った。
『早く帰れそう』
この流れでは間に合わない。いくら深夜とはいっても信号は止められない。リズムが悪くなれば、いくらだってロスは生まれる。ゆったり構えているときは、赤信号は数えるほどなのに。急いでいるときにかぎってなぜか、意地悪をするように、赤いランプを目の前に差し出すのだ。
運転席に座り、エンジンを掛ける。メガネを運転用に替え、カーステレオのスイッチを押した。思わぬ音量に、急いでヴォリュームを落とす。
シートを調整して、ベルトを掛けるその前に。ETCカードをスロットに差し込んだ。下では間に合わない。高速に乗ろう。
毎晩必ず、オートバイに乗る前に、ハニー・インプレッサに立ち寄っていた。メガネを替えたり、いらない物を置いていったり。キーレスのボタンを押すと、2回瞬きを返す。ボンネットの優しい曲線が、切ない気持ちを増幅させた。
“ごめんな”
思いながら、運転席のドアをスルー。後ろに回ってトランクを開けた。おとなしく駐車場で待っているハニー。今日も乗ってあげられないんだ。
仕事で忙しかったり、出かける用事がなかったり。
それなら我慢もしてくれような、と思うのだけど。
ほかの子に乗って出かけている、という状況は、私にとって少し心が痛かった。
ETCでノンストップで首都高に入る。3車線の広い道路。中央の車線に移った。
何も考えず、ジワリとアクセルを踏んでいく。呼応するスピード。追い越し車線を上がってくるハイビームのマシン。私の前にはトラック。
『早く行けよ』
サイドミラーを横目で見ながら思う。
行かせた後、少し間を開けて右へ開いた。十分な高速域から、さらに加速するハニーのエンジンは、軽やかに回る。ドキドキする。訪れる感覚に思わず口元が緩むことさえある。
初めて、今のハニーのその加速を体感したときは、一瞬目が丸くなり、急激にアドレナリンが放出された。武者震いのような何かが、背筋を駆け上がる。
“すごいぞ”
運転席に座る私の方がいっぱいになる。インプレッサはまだまだ余力を残している。涼しい顔で走り続ける。“もういいの?”と言わんばかりに。直線は短く、緩いカーヴもさすがに躊躇するスピードだ。“もういいよ”と、アクセルを緩め、カーヴを抜けて、ステアリングをポンポンと叩いた。
本線から左へ離れ、坂を駆け上がる。右方向にカーヴ。スピードに乗ったまま直線に入り、2車線のトリッキーコースを楽しむ。台数は少なくない。左車線を走る車の挙動に注意しながら前を追う。
渋滞回避の出口を2つパスする。左右に分岐する道を、最後の最後で左に入った。カーヴを抜けて、右からの合流。複雑に交差するジャンクション。渋滞の名所。
金曜日とはいえ、いい時間だ。なのに逆車線は立派な渋滞。真っ赤に続くテイルランプの河が、時間の感覚を狂わせる。
あっという間の出口。深夜の首都高はおしまい。もう少しぐらい走りたいな、と思うけれど、たぶんその感じ方が、ちょうどいい、のタイミングなんだろう。土曜日の深夜よりタクシーやトラックが多く、“走り屋”めいた車は少ない。追われることなく、妙な勝負気を出すこともなく、気持ち良く走れた証拠だ。
ピックアップして、4号を北へ向かう。
線路沿いの自転車置き場。
『気をつけてね』
『うん。またね』
『眠たくないの?』
“眠たいよ、そりゃあそれなりに”―『大丈夫だよ』
窓の向こうの空は、まだ夜のものだった。ヘッドライトの先が途切れて、ほんの少し“おつかれゲージ”のレベルが上がる。早く帰って、少しでも寝る時間を多くしよう。しかたないな、また高速だ。
いくつもあるルートを頭の中で検索する。跨線橋の坂を上り、突き当たりのT字路を右か左か。この時間なら、どれもスムーズに流れているはず。それなら信号の少ない、2車線を選択か。そうか、それならまた4号だな。
走りながらのルート変更も可能だ。次々と新しい道への選択肢が現れる。一瞬迷うところもありつつ、“もういいや”で直進する王道パターンを選択した。
2車線を塞ぐ、大型トレーラーとダンプのスピードに呆れる。右車線のダンプは、とにかく信号からの立ち上がりが、どうしようもなく遅い。スピードに乗ってしまえばそれなりの速度でも、一度止まってしまうと、すべてがリセットだ。
時間をかけて、ゆっくりとパスした。フロントガラスの向こうに、薄い青が小さな三角形を作り出していた。
『夜が明けるな…』
ぼんやりと思う。もう夜の濃さじゃない。ほんのわずかな三角形でも、確実に太陽が近づいている。眠たい、という気持ちが、その濃淡に影響されるように、少しずつ薄れていくのがわかった。
左に行く首都高への道を無視して、右車線のまま交差点を直進した。
小さな三角形は、見る間に大きく広がっていく。東の空はもう全体が薄く明るい。ヘッドライトは消えないけれど、夜明けを走る気分の良さは、疲れをどんどん取り除いていく。左折して環七へ。
今夜のラジオはbayfm。夏のロックフェスについての話題。UDO MUSIC FESTIVAL 2006、FUJI ROCK FESTIVAL '06、SUMMER SONIC 2006。出演予定アーティストのナンバーをかけてくれる。
洋楽は、注目して聴かなくなって久しい。バンド名、アーティスト名のほとんどが“?”状態でも、新しい出会いがあるかもしれない、と思う。昔はなかった意識だ。
普段はあまり車線変更をしない。特に高速道路ではそうだ。基本的に追い越し車線を走る。一番左を走ることはまずない。3車線で真ん中か右。
走行車線では速度が一定しない。SAや高速を降りる車もいるし、スピードが出ない車もある。1台パスしても、すぐに次の存在が出現する。
その流れに逆らわず、のんびり走ることが可能なら、それが一番いいのだろう。しかし、それを我慢できないムシが騒ぎ出す。追い越し車線を睨みながら、右へ開くタイミングを推し量る。シフトダウンして右へ出て、一気に加速していく楽しみもあるにはある。ハニーのパワーを考えれば、悪くない一連の動作。
それでも、面倒だなぁ、と思うときがある。高速はゆったりとした気分でクルージングしたいと思うときが多い。距離を出すためのルートでもあるし、目的地が先なら、気持ち良く快適に走りたい。そのパワーを十分に持っている子なのだから―。
夜明けの青が、そういう気持ちにさせるのか。青が水を連想させたのか。
川の流れを下り走るささ舟のように、バラバラに走る車を滑らかにパスして行く。ブレーキを踏まず、エンジンブレーキでスピードをコントロールする。ムダに回さず、リズム良く走る。右に左に、下品にならないように車線を変える。オートバイのスラロームのように、パイロン代わりのクルマを追い抜いていく。
空はすっかり明るくなっていた。
市内に入る交差点の手前で。信号の赤を機に、ヘッドライトを消した。
『じゃあね』と別れたのが、もうだいぶ前のような感じすらする。夜が朝に変わる時間帯。
ほんの1時間足らず前。それでももう“昨夜”の出来事なのだ。
新しい一日のはじまり。
今回も良い文章ごちそう様でした、カーブがカーヴな所に柊なおさんの言葉を大事にしている事を感じます。
by (2006-04-30 23:42)
なんか、ブログというより短編集を読んでるみたい♪
by pitts (2006-05-01 00:24)
こんにちは。
車雑誌にありそうな短編になってますね。
最近は、夜明けが早いから、書いてある情景も頭に浮かびます。
あえて重箱の隅ですが、スロットル=>スロットとおもはれ...ETCカードの場所
by HIRO (2006-05-01 00:40)
B’SPACEさん~、こんばんは♪
やー、久しぶりに夜明けを走りましたです。
もう絶対徹夜はできないですもん。10代後半~20代半ばあたりの、あの元気、体力って一体…て感じです(とほほ)
なので、久々、だんだんと明るくなっていく中を走るのは、すごく気持ちよかったです~。そしてまた心配ごとを考えすぎて、うわ~ッ、とならずに済みました。
私自身のことではないので、あんまりキツキツ思ってもしかたないんだよなぁ、とか思ったりもして。
連休中なので、のんびりクルマとバイクと楓と戯れます♪
pittsさん、こんばんは~!
ネットだとねー、字数行数わからないからなぁ。余白も取ってるし。たいしてないでしょ、とか思ってたら、意外な枚数行ったこともあって、おかしかったことありますです。
昔はネット小説、日記風の話とか、めちゃくちゃ読んでたなー。ベラボウなアクセス数のサイトとかあったよね。膨大なページ数なのだけど、だんだん冗長になって…というより、あまりに多くて読むのが疲れちゃったのとかあった。
ソネブロにも小説あるよね~。何気に応募してみよっかな、とか思ったけど…やめてみた(ダメダメ)
HIROさん~、こんばんは★
スロットル…うひゃああああ、でしたよーう。ありがとうございますッ!!
なんで間違ってんだ!?って思って。自分でも“???”でした。
会社で、こっそりHIROさんのコメント見て、直すだけ直しちゃいました。レス遅くてすみません~ッ
motoGP、ダビング分見たりしてバタバタとしていて…。
さー、今度はmotoGP感想文だ。結果を知らなかったので、まだHIROさんとこの記事も、ふなじゅんさんとこの記事も読んでないのです。
あとでお邪魔しますね~♪
燃費計算のトラックバック記事
本当にありがとうございますッ!!!
htmlの仕事していて、パソコン詳しそうなわりに、何気にワードとエクセル、ダメなんですよ…(涙) スキルチェックで実務1カ月のパワーポイントが上級って出て、嬉しかったのですけど、ワードがコメントできないていたらくで。ビックリでした(ためいき)
早速、エクセルで作ってみたいと思います~★
by 柊なお (2006-05-03 00:04)
こんにちは。
人間見落としとかありますから...読んでてアレ?って思う事や、TVで読んでる原稿の間違いとか意外に気が付いたりします。
偉そうな事?を言ってますが、うちも、相方に駄目出し喰らって直した事は、数知れず...(笑)
MotoGPの感想文期待してます。
燃費計算だけだったら、携帯の計算機機能だけでも充分?ですが、記録に残すという意味もあるので、少しずつやってみて下さい。
by HIRO (2006-05-03 02:47)
HIROさん、こんばんは~♪
遅れすぎですが…motoGP感想文を書いてみましたです。
ヴァレ・ファンとしては、何やら“むむむ”なレースだったのですが、お気に入りのケイシーが頑張ってくれたので、ヨシとします(だいぶ無理やりに)
というか、あそこまで行ったら勝ってほしかった~ッ
振り切れなかったし、マルコメ、絶対仕掛けてくるな、ってわかっていたから、それを阻止できなかったのは経験の差から来る実力差なんだろうな、って。
でもあの子たち二人のコーナーへの突っ込みぶりは、見ていてドキドキしたし、本当にすばらしいな、って。ダニーの転倒も痛々しかったけれど、完走してくれてよかったです♪
うちのCB400SSは、もうじきスタンドです~。現在140キロ弱となっています(100キロで行くとか言いながら…)。次の練習でセルフに行こうかな、って。
メモして帰ってきますね~ッ
by 柊なお (2006-05-07 02:12)