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シーザリオ [MY SWEET HORSES]

 圧巻だった寒竹賞。一目惚れだった。
 オークスは間違いないんじゃないか―すぐにそう思った。

 3戦目のフラワーCでは、初めての、でも圧倒的な1番人気に推された。疑いようがない。アタマ鉄板、彼女だけ見てればいいよ。

 

 思った通りのレース、勝ちっぷり。鳥肌が立つ。寒竹賞の“オークス100%”のハリが振り切れる。『早く見たい。早く!あの舞台で』と桜花賞をすっ飛ばして、心躍らせていた。

 桜花賞はディアデラノビア、オークスはシーザリオ、と同馬主の牝馬を預かる角居調教師は、彼女たちの出走レースがかぶらないように、血統的な背景も含め、早々と大目標を定めてレースを選んできた。
 しかし、桜花賞を目指したディアデラノビアは、2勝を挙げたものの、トライアルで敗れ出走叶わず。フラワーCを完勝したシーザリオが桜花賞の舞台に上がった。

 主戦・福永騎手をラインクラフトに譲ったかたちになったが、1番人気を譲り渡すことはなく、彼女は仁川の桜の下に立つ。
 通算成績6戦5勝(海外1戦1勝含む)、2着1回。競走成績で唯一の“2”がついたのが桜花賞だった。レースの後、“オークスは譲れない”と改めて思う。ここまで信じられる3歳牝馬には、なかなか出会うことはない。

 

 桜花賞馬ラインクラフトが、NHKマイルCを勝ち“変則2冠馬”と呼ばれ、ディープインパクトが無敗で皐月賞を制し、“無敗の2冠馬”を目指していた頃―

 彼女は無冠だった。

 

 だけど、焦ることはなかった。
 負けるはずのない、一番強い輝きを放つことのできる場所。父が制した舞台。
 ライバルは、同じ厩舎のディアデラノビア。気性的なものもあり、春まではマイルの方がいいだろう、という判断だったが、血統的には父サンデーサイレンスに、母はアルゼンチンオークスを勝っているポトリザリスと、そう心配することはなく。
 万全を期したフローラS。本番では騎乗できないだろう武豊騎手を配して勝負がかり。後方から追い込んで、上がり3ハロン33秒8の脚を見せた。文字通り、タービンが回った走りだった。

 ディアデラノビアをオークスに導いた武豊騎手には、手を取り続けたパートナーがいた。エアメサイアだ。
 桜花賞4着の後、『距離延びても大丈夫』とオークスに向け、手ごたえのあるコメントがいくつも見られた。豊さんがそれだけ言うのなら、と人気でも彼女と1点勝負!と力いっぱい思っていた。

 前述のディアデラノビアの3頭が、完全に抜きん出ていた。
 それでも実際は―1番人気シーザリオ単勝1.5倍、2番人気エアメサイア単勝8.6倍、3番人気ディアデラノビア単勝9.0倍......


 抜けているのは、彼女だけだった。

 

 

 どうしようもない場所から、信じられない脚で突っ込んできた。
 広い府中の直線で、内でもがいているように見えた。
 あそこからどうやって!?

 

 強すぎたレースは、やっぱり彼女に無理をさせていたのだろうか?

 

 

 半月後、彼女はアメリカへと旅立つ。
 青毛の馬体が太陽に輝いていた。ただただひたすら美しいと、それだけ思った。堂々と歩く姿は、頼もしかったし、勝てるんじゃないか、と期待していいと思えた。
 もちろん最後はいつもの通り、『無事に帰ってきてくれればいい』とそれだけを願っていたけれど。

 思った以上だった。どうしていいかわからないような、すごいレースを彼女はした。体が震えた。

 

 秋はもうしかたないな、と。
 彼女に勝てる存在は、同世代の牝馬には存在しない、と少し残念に思った。
 エリザベス女王杯に行くのか、それとも…。

 ジャパンCに出てきたなら、めちゃくちゃ盛り上がるだろうな。
 ディープインパクトとの対戦は、いつになるだろう。

 

 早く、彼女の走りを近くで見たい

 

 楽しみにしていた。とてもとてもとても。
 叶わずに終わってしまった。あのときのように―
 大好きだったあの子が、秋に戻ってこられなかったように
 さらに強くなっていただろう、彼の“続き”を見られなかったように

 

 いつも思うのは―『無事に帰ってきてほしい』

 

 レースから
 競馬場から
 放牧先から

 

 ゆっくりと休むことのできる場所へ

 

 勝負を離れて
 みんなに送られて
 綺麗なレイ、まばゆいほどのフラッシュ、拍手と歓声.....

 もちろん静かに送られるのもいい
 大好きな人に囲まれて
 “おつかれさま”と首すじを優しくなでられて

 

 

 夢の続きばかりを見てしまう

 不眠症になりそうだ

 

 

 続いていくのが競馬

 もうあの走りを見ることはできなくても、彼女の走りを受け継ぐ存在を待つことはできる。
 青毛の、凛とした背中の、美しい子ともう一度会えることを願って…  


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コメント 2

寒竹賞、フラワーC、オークスと、東上したレースは全て現場で見てました。
牝馬らしからぬ堂々としたパドックが目に付いた寒竹賞。
負ける気がしなかったフラワーC。
そして祐一が乗りミスを能力で補ってくれたとべた褒めしたオークス・・・
どれも忘れられませんね。
競走馬はケガと隣り合わせ。電撃引退も英断だと思います。
お疲れさま・・・と労いたいですね。
繁殖としてどんな産駒を出してくれるかも今から楽しみですよ。
by (2006-04-05 22:57) 

柊なお

 放蕩息子さん、こんばんは!!
 本当に心の底から残念です…。寒竹賞、呆然としていました。なんだアレ?って。おかしくないか?って。
 フラワーCは、ね~!!!! 負ける、ってナンデスカ?って感じでしたね。当然当然、通過点だよ、キミ!って言いふらしてました。まぁ、みんなそう思ってましたが…(汗)
 オークスは…豊さんフリークとして、特にGIでは単勝を買わずにいられません(←無謀多々あり)。シーザリオに勝てるとしたら、豊さんしかいない(エアメサイアじゃなくて)と思って、単勝と馬単5-4で熱く勝負だったんです。
 でもダメでした。エアメサイアと豊さんは完璧でしたもん。シーザリオとユーイチくんは、かなりしんどかったですもん。でも差された。思わず床に崩れ落ちましたが、彼女の強さにひれ伏す思いもありました。

 本当に残念でたまらないですが、彼女の子どもたちに会えるのを楽しみに★
by 柊なお (2006-04-05 23:22) 

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