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韓国に勝てない理由 [BASEBALL]

 『韓国にあって、日本にないものは?』と問われたイチローは、『何でしょうねえ…』と、いったん言葉を切り、しばらく後に『それがあると思えない』と答えたという。


 World Baseball Classic、2次リーグ・プール1での日本最終戦、対韓国の試合後のことだ。
 2戦2勝で最終戦を迎えた韓国に対し、1勝1敗の日本は、この試合を勝たなければ自力での準決勝進出はなくなる。アメリカ戦を落とした日本は、背水の陣で臨んだメキシコ戦を快勝。1次リーグの雪辱を果たすべく、韓国に挑んだ。

 


 

 勝てると思っていた。決して楽観的な、自国びいきの気持ちからではなく、実力を考えても、メキシコを破り、アメリカを破った韓国の、調子の良さを考慮に入れても、何ら遜色なく、いい試合ができ、そして最後には勝っているはずだ、と思っていた。

 

 先発の渡辺俊介は、すばらしいピッチングを見せた。立ち上がりこそ、ランナーを出したが、全く慌てるところがない。淡々と投げ、そして表情を変えずにマウンドを下り、ベンチに戻ってくる。迎える王監督に、少しだけくちびるの端を上げて応え、奥へと消える。

 初回にはイチローがヒットで出塁。2番西岡のセカンドゴロの間に2塁へ進塁するも得点にはならず。今大会でチャンスを作り続け、そして得点を生み出してきた、この1、2番が、やはりまた形を作った。打順はまだまだ巡る。頼もしさを感じながら、次の回を待つ。
 2回。先頭の岩村が内野安打で出塁。連続のノーアウトでのランナーだ。多村のサードゴロで2塁へ。小笠原、ショートフライで2アウト。しかし、ここでメキシコ戦、大当たりの里崎の打席だ。

 『イケる!』
 心ひそかに思う。その予感通り、里崎は初球をライト前に綺麗に運んだ。2アウト2塁からのヒットだ。タイムリーになるのは間違いない。

 ホームでのクロスプレイ。岩村のスライディングは滑らかとは言いがたく、ライトからの返球を受けたキャッチャーにタッチされ、無情のアウト。盛り上がる韓国ベンチを映し出すテレビの画面を見つめながら、マズいことになった、と苦々しく思った。

 

 当たっている里崎のヒットだけに、ここはどうやってでも得点したかった場面。3塁で止めたとして、次も好調の川崎と考えればチャンスは広がったか? ―いや、そこで川崎が凡退すれば、なぜ里崎のヒットで返さなかったのか、となる。
 結局、岩村は絶対に生還しなくてはならなかったのだ、あの場面では、という結論に行き着いた。それが叶わなかったとき、チャンスの女神はそっぽを向いてしまう。手から離れていってしまう。

 

 3回表の韓国の攻撃を3者凡退で終わらせた渡辺俊介。それもわずか9球で、だ。日本からそっぽを向いた女神の顔を、韓国もまだ拝めていない。一気に行かれてもおかしくない展開だっただけに、この後の渡辺俊介のピッチングは、まさに神がかり。
 しかし、あまりにも渡辺俊介が素晴らしすぎたがために、ゲームが膠着状態に入ってしまったように思う。フィールドの空気が張り詰め、動きが取れない状態になってしまったのだ。

 ヒットが出れば、ランナーが出る。ランナーが出れば空気が動く。
 得点が入れば、良くも悪くも空気が動き、流れが生まれる。

 

 サッカーを見ていると、時折そんな試合に出会う。動かない空気。目の醒めないゲーム。濃密でありながら、濃すぎて見えづらくなっているような。ひいきチームのプレイを見ていて、これは厳しいなァ、と冷静に思うとき、相手ゴールを望むことがある。
 ゴールが決まれば流れが動くからだ。動いた流れに乗ることができれば、試合をひっくり返すことは可能。がんじがらめになって、小さな動きしかできないときは、荒療治だろうが、あえて失点を望むこともある。

 

 後ろに余裕があれば、失点もチャンスに変えられる。

 

 変えられないまま、終わってしまった。
 危惧していた通りの流れだった。テレビの画面を見つめながら、2回裏の、あのシーンが何度もよみがえる。あのとき1点取れていれば―

 

 

 今大会、3度目の対韓国戦。1度目は敗れたとしても次へのステージは用意されていた。2度目は、他力本願ではあったが、それでもまだ次へのチケットが手に入る可能性があった。
 3度目は―。
 もう後はない。負ければそこですべて終了だ。しかし、負けても負けても次に進んでこられた強運は、『日本にあって、韓国にないもの』だろう。

 

 『それがあると思えない』

 

 言葉を現実に変えるときがきた。
 証明する必要が絶対的にある。
 見逃せない一戦。次なるステージは、世界一の座に続く。 


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