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motoGP 第8戦イギリス [**Valentino ROSSI]

 逃げ、先行、好位差し、追い込み…。
 レースはレースでも。競馬のレースで使われる言葉たちだ。
 “脚質”と呼ばれる、それぞれの馬が好む(力を発揮できる)、レースでの脚の使い方を指す。

 どの馬が強いか―。この言葉から選ぶとすれば?

 無敗でクラシック3冠を制したディープインパクトは、馬群の後ろを淡々と進み、3コーナーから4コーナーにかけて、鞍上の武豊騎手が何もすることなく、スッと影のように動いていき、直線では“空を飛ぶ”走りを見せた。
 彼の前に3冠馬となったナリタブライアンは、早め先頭から圧倒的なパフォーマンスで、他馬を突き放した。菊花賞(芝3000メートルの長丁場で)の着差は何と7馬身だ。
 そしてサイレンススズカは、金鯱賞でハナを切り、ただひたすらそのまま走りきった。つけた着差は馬身ではなく“大差”。影をも踏ませぬ、というのはまさに彼のレースだった。





 馬は生き物だ。気持ちで走る部分も大きくある。体調が良ければ実力を十分に発揮できるが、具合が良くないときもある。他の子に当たられたり、そばに寄られただけで怖がってしまう子もいる。
 ぬかるんだコースに脚を取られ、飛んでくる土に嫌気を差すこともある。先頭に立つと気を抜いて、走るのをやめてしまったり、誰かの後ろには我慢できない子もいる。

 さまざまだ。どの子が強い、とは脚質では到底判断できない。

 しかし。有利なのは逃げ、先行だ。これはもう間違いないことだ。
 なぜか―。不利を受けることが絶対的に少ないからだ。









 オートバイレースでは、スタート時、グリッドと呼ばれる順番に並ぶ。
 グリッド順は、前日のタイムアタックで決められる。1周を最も速く走ったライダーが1番グリッドにつく。1番を“ポールポジション”と言う。

 速く走れるライダーから順に、前の列を埋めていくのだ。ご褒美のように。
 スタート時、マシンは次のコーナーを目掛けて、一番いいポジションに入ろうとする。多くのマシンが同じことを考える。そのとき何台ものマシンが自分の前にいたとしたら…?

 スタートをドンピシャで決めても、前をふさがれるかもしれない。
 いい位置を取れたとしても、すぐ横からコースを奪われるかもしれない。
 少しでも前にいる方が有利だ。その一瞬で優劣が決まる。



 ル・マンに続いて雨中のレースとなった。ル・マンではmotoGPクラスのスタートからポツリポツリと水滴が落ち、ドニントンでは先に行われた250ccクラスのどしゃぶりに比べれば、雨は収まりつつあった。しかしサーキットのいたるところに水たまりがあり、ドライタイヤで出ることはできない。
 ウエットであることは間違いなく、コース・コンディションからも先行有利の展開になるだろうことは容易に想像できた。



 ヴァレンティーノ・ロッシは、“好位差し”を得意とする。レース序盤は中団より少し前、徐々に順位を上げ、終盤でトップ争いに加わる。ラスト3周をメドに何度か先頭に立ちつつ、最後の最後でキッチリ仕上げる―それが彼の『勝利の方程式』

 逃げ、先行が有利だと言いながら、ヴァレは好位差しだ、というのはどういうことなのか。
 マシンは馬よりも、その性能の発揮について不安定な要素は少ない。

 週末にレースを控えた馬たちは、週半ばの水曜、もしくは木曜日にトレーニングセンターの調教コースで追い切りをかける。ジョッキーが跨ることもある。陣営は万全の態勢で、馬の状態を高い位置でキープする。競馬場への移動も神経を配る大きな部分だ。
 パドックでテンションが上がりすぎないように、本馬場入場時に緊張しすぎないように、落ち着いて、最高の状態でゲートが切られる瞬間を迎えられるように努める。

 それでも。ゲートでつまずいてしまうことがある。スタートを失敗して、前をふさがれ、一瞬で走る気を失ってしまうことがある。ふだんはゆっくりと一歩目を踏み出す子が、あまりにもスムーズにゲートを出てしまい、予想外のスピードで走りだしてしまうこともある。隣の子と接触し、早くも“やる気”に火がついてしまうこともある。
 ジョッキーは、パートナーの一番いいところを引き出すためのレース展開を考えている。その半面、さまざまなケースを想定してもいる。しかし、スタート直後から望まない事態になってしまった場合、多くは力を発揮できずに終わってしまう。うなだれて戻ってくることになる。



 メカニックとライダーは協力してマシンを仕上げていく。セッティングを変えてはサーキットを走る。改良・改善の繰り返しだ。
 タイムアタックでは、より上のポジションを獲得するために、一発のタイムを取りに走る。誰が相手の闘いではなく、ただひたすら時計との闘いだ。ギリギリを攻めるライダーの背中は美しく、私は予選を見るのがとても好きだ。
 決勝レース当日の午前中に行われるウオームアップを経てパドックを出るマシンは、最良の状態としてライダーに託される。

 グリッド順は大きな要素だが、スタート直後は混戦だ。うまくさばくことができれば、一気の浮上も不可能ではない。
 前へ出られたとして、バトルになるとする。観ている方としては熱くなる場面だ。だがライダーとしては、早く抜き去り、少しでもトップとの差を縮めたいところだ。何とかパスし、差を開く。前との差を詰めにいく。
 タイヤが温まり、スピードが上がる。いい具合にピッチを上げ、勢いに乗って追う。終盤先頭争いの輪に入ることができる。さあ、ここからが本番……。



 タイヤがなくなる。
 それまでキープできていたスピードが出なくなる。グリップが薄まり、コーナーをうまく曲がれなくなる。スピードを落とさざるをえないが、グリップが弱まっているためブレーキも利きづらい。手の施しようがなく、ただひたすら走行速度を落としていくしかない。

 運悪く、履いたタイヤだけが具合の悪いこともある。気温や路面温度を読み違え、タイヤ選択をミスした結果ということもある。
 負荷を少なくし、レース距離をしっかりと捉え、考えられるベストなレースをすることができれば、タイヤは最後までもったろう、ということは多い。しかし、いつどこで誰に何が起こるかわからないのがレースだ。予想外のことが起こるなど、珍しくも何でもない。

 それをも含め、走りきることができるライダーが強いのだ。ヴァレンティーノ・ロッシというライダーは、それをシーズンを通してできる数少ない存在のひとりだ。
 彼は常に、レースすべてを捉えて走る。経験があり実績がある。そのことが彼の力にさらなる自信を与える。スロースタートなのは、タイヤの時間待ちだ。終盤に迎えるだろう、最も厳しいバトルに対して、ベスト・パフォーマンスで挑めるよう、タイヤはミディアムかハードを履くことが多い。
 終盤に必ずトップを捕まえる、という予測は、彼の腕からすれば確信にほかならない。そこに至るまでに消耗することはなく、絶対にパスしていけるという自信。
 ベースにあるものは、彼のオートバイへの気持ちと、その喜び。そして、類稀な才能と飽くことのない向上心。
 誰かと競走すること、それを制して自分が先を走ること、それを楽しいと思うこと、そのために自分に何ができるのか、どうすればいいのか、何をしたいのか、手に入れたいものは何か―ヴァレは知っている。

 だから彼は―いつだって
 マシンがその轟音を止めてしまわないかぎり
 レースを諦めたりしない。走ることをやめない








 ポールポジションからコーリンが、スタートを決める。3番手からダニーが追う。2番グリッドからのヴァレは、スタートでまた順位を下げた。雨は降ってはいたけれど、空はほんのり明るくなってきていた。不安定な雲行きながら、ひどくなることはないのではないか、と思われた。
 水しぶきを上げてマシンが走る。周回を重ねるごとに白いラインは薄くなり、上がる水しぶきは小さくなっていった。マシンが走ったルートが、けものみちのように濃いアスファルトの上にうっすらと現れる。

 コーリンは一時、ダニーにトップを譲る。濡れた路面を気にしない、雨のル・マンを制したクリスが12番グリッドから先頭集団に入る。ドニントンからKAWASAKIのレギュラー・ライダーとなったアンソニー・ウエストもレインレースを得意とするらしく、序盤からプッシュしてきた。
 スタートをヘグッたヴァレは、彼らの積極的なレース運びに翻弄されるようにリズムに乗り切れない。タイヤがうまく動かないことも原因のひとつだったろう。
 最大のライヴァルであるケイシーは、ドゥカティに不調が出て、予選で苦労していた。2列目からのスタートになり、さらに雨である。ウエットはあまり得意ではないヴァレだったけれど、最近ではいい結果を出している。ケイシーよりポイントを稼げる、十分可能性のあるレースだったはずだ。わかっていたと思う。


 それなのに。前へ出て行けない。ダニーとコーリンが引っ張る流れは緩く、雨を引き込んで走るクリスやウエストが積極的に追っていく。
 これまで、雨は絶対に嫌だ、といわんばかりで、ドライ・コンディションとは別人のようなライディングだったケイシーにすらパスされる。慎重ではあるが、消極的でもない。彼は転びさえしなければ、順位は問わない。ヴァレより先にゴールできれば御の字だ。ここまでのレース結果が、彼にたっぷりの余裕を与えていた。


 開幕戦の勝利は、ホールショットを決めたに等しい。すべてのライダーに一歩先んじる。早い段階での連勝は、裏ストレートで気持ち良くアクセルを開け、一気にその差を開くと言えようか。
 トリッキーなコースで多少スピードが落ちても、再び巡る長い直線で必ず抜き返せる。その自信を開幕戦で得ている。勝利は経験に、経験が自信の糧になる。花開かせるレースがさらなる余裕を生む。

 真正面からのバトルで一歩も退かない。焦りが出てもおかしくない、緊迫した場面で、彼の奥底にあるものは諦観なのかもしれない―「ここで負けても、たいしたことはない」
 それが肩の力を抜くのか、余計な雑念を振り払うのか。がんじがらめになっておかしくない若さが、彼の背中にはもう薄い。圧倒的なヴァレの存在感を、その諦観が薄めてしまう気さえする。

 コーリンを捕まえに行く必要はなかった。無理してまでパスしよう、という気もなかったはずだ。ただブリヂストンは順調にマシンを走らせ、ドゥカティは回復していた。差が縮まった、と思ったときに、コーリンがミスをした。前が開くのを黙ってみていることはない。

 ガツガツしない。する必要がない。ヴァレの姿は振り返らずとも遠く、ほかに敵はない。得意とは言えない濡れた路面でのレースで、慌てることも不安になることもなかった。ただ無事にチェッカーを受ければそれでいい。少しでも順位がよければ気分がいい。
 ―それほどの余裕を、彼以外で、誰が感じることができただろう。







 2番グリッドを獲得した予選の後、カンファレンス・ルームに現れたヴァレは、あまり元気そうじゃなかった。話す言葉も、その口調も。さほど変わらない、といえばそうだが、絶好調とはまず言えるものではなかった。前向きなコメントを残してはくれたけれど、それは誰に、ではなく自分に言っているようにも思えた。

 前回、カタルーニャでの激闘をヴァレは、とても喜んでいた。それは事実だ。そして完全に、ケイシーを最大のライヴァルと認めた。マシンのすばらしさとともに。
 だから今回のドニントンは、試金石だった。ここで誰が勝つのか。ヴァレなのか、ケイシーなのか。新たなライヴァルの出現があるのか。ヨーロッパ・ラウンドも中盤に入り、3戦を終えたらサマー・ヴァケーションになる。
 次こそ必ず、と思いながら、それでも何とか踏ん張ってきたヴァレ。カタルーニャでケイシーが得た経験と自信、ヴァレの得た手ごたえ。どちらがどれだけフィードバックされるのか、ここで明らかになるはずだった。

 ケイシーの勝利。ポイント25よりもずっと。大きい結果と成果が彼とドゥカティに贈られた。










 本当に苦しくなった。HONDAの不調は重症で、サマー・ヴァケーションを待つしかないのか。どこならどう、と計算も立たず、ただ勝つために走るしかない。だが、「ケイシーは完璧だ。全くミスがない」とヴァレが言うとおり、このままでは勝てないだろう。ヴァレがどれほどすばらしい走りを見せても。ケイシーがミスをしなければ。

 そういう状況だ。
 それでもヴァレは何とかしようとするだろう。彼はまだレースを諦めていない。
 大好きなアッセンで。太陽の下で無事にスタートを向かえてほしい。









*****

 こんなの見つけちゃったので。
 早速やってみた。
 ちょっとドキドキしたんですけど………………超簡単だった…(へへ)


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のらねこ

ドニントンパークで差が開いた12ポイントは、
今年のチャンピオンシップ争いの大きな要素になりそうな予感。
ロッシ検定、1位はさすがですね(笑)。
by のらねこ (2007-06-27 23:35) 

柊なお

 のらねこさん、こんばんは~♪
 致命的、までは言わないですけど。相当厳しくなったことは確かですねえ。
 慌てる必要がないんですもん、ケイシー。
 その余裕は落ち着きを生みますよね。競りに行ってもミスしてくれない。
 ミスしないライダーを、パスできるのがヴァレだけど。ストレートで抜き返されたら、やっぱり苦しい。コーナーの方がリスク高いし。

 何か考えてくれてると思うのですが…。
 いい夏休みを迎えてほしいと願うばかりですう(ふー)

 ロッシ検定
 超簡単ですよッ!! ダイジョーブ!
by 柊なお (2007-06-28 00:31) 

XXAR2

ロッシ検定、チョー簡単でした(笑)
by XXAR2 (2007-06-28 00:45) 

mitsato

ロッシ検定、やってみたら全問正解でした。
by mitsato (2007-06-28 06:20) 

かみさま

全国1位ですか・・すげ~(^-^)
by かみさま (2007-06-28 06:56) 

ロッシ検定なんてあるんですね。
1位ですか。 素晴らしいです。
by (2007-06-28 09:48) 

HIRO

こんにちは。
ドニントンは、ヴァレの得意なコースだからDUCATIを応援している自分としては、「ポイント差が開かなきゃいいや」位に構えてました(笑)

考えてみれば、ケーシーは、ロードに転向する前はダートトラックで強かったのだから、滑りやすい路面も意外と行ける(BSが持った性もあるけど)んですね。
1〜2号前の、ライスポ誌の4コマ漫画で、バー・デビルのマスター(笑)にヴァレとおぼしき人物が「ケイシー速いよな...」ってぼやいていましたが、「ケイシーが速いんじゃないよ、DUCATIが速い...」って言われてましたが...(爆)

去年の事もあるし?全然油断出来ません>ヴァレ

検定日本一! 流石ですね。
by HIRO (2007-06-28 10:32) 

柊なお

 XXAR2さん、こんにちは~♪
 そーなんですよーう。検定、めっちゃ簡単なのです!
 もっと骨のある問題をプリーズ~ッ!!でしたわあ。
 「みんなの検定」、たまにヒマつぶしにやりだすと、ハマッてエラい勢いでガツガツやっちゃうので、困りモノですわ(おほほ)

 でも合格ラインが取れるジャンルは数少ないワタクシです(しくしく)

 みっくん!
 トラバ、サンキューです~♪
 簡単だよねえ(笑)
 以前ワタクシ、難漢字読みのサイトにハマッて入り浸っていたのだけど。
 動物の名前とか植物の名前とか。めっちゃ難しいの。
 全問正解(100以上ある)タイムアタックで全国1位、2位でしたよん(ピース)
 それはひそかに自慢だったです。もーう忘れちゃったけど(ダメじゃん)

 かみさまさ~ん♪
 全国1位がどれほどのもんじゃい、という典型的な具合ですけども(えへ)
 いいかげん、ウイニングランやら表彰台やら記者会見やら。
 気分良く見たいんですけどーうッ
 わりと冷静でいつつ、ものすごく欲求不満ですッ(破裂するううううッ)

 シンナツさん~♪
 あるんですよー。世はまさに検定ブーム!!
 この間のロック検定なぞは、大学講義室を借り切っての本格的なもの。
 問題をちょろり見ましたが、めっちゃ難しかったです。
 マジで“受検勉強”が必要なぐらい。
 趣味の知識を第三者評価で計る、というレベルのものではないですねえ。資格にはならないけど、ロック検定をはじめ、相当評価の高い検定もこれからどんどん出てきそうです!!

 HIROさん♪
 最初はそう思ってたです、ヴァレもたぶんそう<DUCATIが速い
 カタルーニャでガチンコ勝負。見る目、変わりますよね。

 ここから先、ケイシーは余裕さえ失わなければ安泰ですよ。
 リタイアしないこと。これだけでしょうね。
 ノーポイントが1度入ると、多少何か揺れがある気がしますけど。
 悟りきったような、妙な落ち着き。250でチャンピオンになったダニーみたいです。強いですよ、冷静で周りがよく見えてる。

 アッセンでは、お天気がよくなってほしいです(切実) 
by 柊なお (2007-06-28 15:38) 

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