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motoGP 第5戦フランス [**Valentino ROSSI]

 降りだした雨が、強さを増す。すべてを変えてしまう雨が、どんよりと曇った空から落ちてきた。我慢しきれずに涙を零す空に、ライダーをなすすべを持たない。



*****




 フリープラクティスの様子は、さほど悪いものではなかったと思う。が、予選でタイムをなかなか上げられず、しかたなく納得したような4番グリッドで、レース当日を迎えた。
 最近はウオームアップのタイムも良くない。何となく表情も冴えないように思うのは、気のせいなのか。明るい太陽の笑顔は、曇った灰色の空が隠してしまったようだった。
 それでもどこか半分は。『ヴァレのことだから。何かをきっと考えてるはず』と、思っていた。そうでなければヴァレンティーノ・ロッシじゃない。

 motoGPクラスのスタートから、雨が落ちてきた。空から写すカメラのレンズに薄く水滴がついている。ああ、降ってきたんだな、とうっすら思うけれど、このままもってくれれば、という程度だったから、さほど重くは思わなかった。
 スタートを決めたヴァレは、濡れだした路面を気にするドゥカティを早々とかわす。さすがにアクセルを思い切り開けることはできないし、ハードなブレーキングもご法度なら、赤いモンスター・マシンの才能すべてを披露することは難しい。最高速がどれだけ違っても、その最高速を出し切る機会がなければ意味はない。

 徐々に引き離すヴァレのマシンの後ろに迫るのは、いつもとは違う黄色と緑のマシン。
 同じYAMAHAのマシンを駆るシルヴァン・ギュントーリ。予選でも攻めた走りを見せ、一時はトップタイムもマークした、地元フランスのライダーである。“知り尽くしている”と言わんばかりの攻め上がりは、ほかのライダーの追随を許さない。
 緑のマシンはKAWASAKIのランディ・ド・ピュニエ。彼もまたフランス人だ。母国グランプリは気合が入るものだが、彼らふたりの走り方は、雨の影響を全く感じさせなかった。



 しかし。空はそれを許してはくれない。




 アスファルトが、その色を濃くしていく。もってくれれば、と思うすべてのひとの願いを嘲笑うかのように雨は勢いを増した。映されるピットでは、各チームが代替マシンを準備している。
 見た目にもわかるほどアベレージスピードが落ちる。スリップダウンするマシンが続出した。集団の中で、誰にも接触しなかったことが信じられないようなチェカの転倒。
 黄色いマシンがヴァレの目の前で跳ね上がる。単独トップに立った緑色のマシンは、カメラが切り替わったときにはもう。グラベルに横たわっていた。

 続々とピットに戻るカラフルなマシンたち。ライダーは用意されたレインタイヤ装着マシンにまたがり、ピットレーンに戻っていく。雨はますます強くなり、白いラインが足跡のように舞い上がる。

 どうやったってそれは。順位が入れ替わってしまう。よくわからないドサクサで、誰がどのタイミングで1位になるのだろう。気がつけばリズラブルーがトップを走り、懸命に後を追うゼッケン33番がいる。
 FIATの白いマシンは、なんとかついていこうと必死だった。けれどだんだんと。“ついていこう”というより“かわされてなるものか”に変わる。後ろには赤いマシン。これまで何度となく苦渋を舐めさせられてきた相手だ。ここはパスされたくはない。相手も必死だ、余裕などない。
 彼の腕はマシンが互角なら、いや、多少劣ったとしても、誰かにむざむざと負けることはない。決してない。それは何も、ただヴァレを好きだからではなく、すべての要因が彼の至高の座を証明すると思う。
 今回はそれが、顕著に表れるだろう機会だったはずだ。



 雨が降らなければ―ドゥカティに勝てただろうか
 雨が降らなければ―ヴァレはトップであり続けられたのだろうか











 根本は何も変わっていない。YAMAHAとミシュランは、ドゥカティとブリヂストンに匹敵するパワーを生み出せないでいる。スタートで雨が落ちてこなければ、ケイシーはハナを切り、パスするのはまた難しかっただろうと思う。
 けれど、雨が降り出した。それはヴァレにとってプラスに働いた。ドライ・コンディションの時からは想像もつかない、慎重な動きでドゥカティはレースを進める。彼にとっては順位を下げすぎず、完走すれば、結果はいいものとなるだろう。ここまで最高の経過なのだ。無理することはない。

 ヴァレの走りは美しかった。序盤、開いてみせた距離感が、彼のすごさなのだと思う。

 雨は時間とともに強くなり、路面のすべてを塗り替えた。ピットに入り、マシンを替える。5番手でレースに復帰も、すぐに順位を上げた。ホッパーがコースアウトし、3番手まで上がる。上位2台とは距離があったが、周回数は十分残っている。ヴァレなら追いつける差だ。疑う余地はない。

 願い虚しく、少しずつ開く距離…認めたくない。けれど、前との差より後ろとの差が縮まってしまう。ありえないミスをする。ツケこまなければライダーじゃない。


 ありえないミス、をヴァレだってする。転倒もする。完璧では決してない。
 マシンがいつも通りでも、起こり得ることだ。ましてやタイヤが言うことを聞いてくれないのでは、ヴァレにもお手上げだ。転倒しないことが、あれだけ滑りながら、何とか踏ん張ってみせたことが、ヴァレのなせる技だろう。
 それでもミスはミスだ。タイヤチョイスを、天候の予想を―間違ってしまった。






 「今日の結果には本当に腹が立つ。雨さえ降らなければ、優勝争いを間違いなくできた。ドライならマシンはとてもよかったんだ」

 いつ語られた言葉なのか。レース終了後、ヴァレはサーキットをゆっくりと1周し、時折スタンドに向かって小さく手を振った。それはもう本当に小さく。カメラが戻ってくるトップ3台を映し、喜びを分かちあっている間に、ヴァレは姿を消した。それきり2度とカメラの前に現れることはなかった。
 マシンを降りた後、ひと言も発しなかったかもしれない。足早に歩き去る彼の後ろ姿が目に浮かぶ。

 「マシンを替えたとき、硬めのレインタイヤを選択してしまった。その時はまだ、雨はこれ以上強くならないと思ったんだ。予想は大きく外れ、リアが全くグリップしなくなった。プッシュできる状態じゃない」

 腹立たしげに語ったのだろうコメントは、詰められたかもしれないポイントを、さらに開かれてしまった結果を受け、今後の展望も暗いものにしていた。
 それでも。カンファレンス・ルームのテーブルで、薄い笑みを顔に貼りつかせて、20ポイントを獲得できてよかった、と話す彼を見るよりいい。そう思う私はたぶん、誰よりもヴァレを好きなのだ。







 次戦ムジェロはヴァレの地元だ。そしてドゥカティの母国でもある。去年のムジェロもすべてを賭けた戦いだった。今年のムジェロは、それ以上に大きな意味を持つものになるだろう。
 チームはル・マンに残り、テストを行うという。少しでも何か糸口がつかめることを、彼の勝利に大きな一歩になることを願う。

 このままではきっと。
 面白くないだろう。motoGPを楽しむひとびとに、もう一度さらなる喜びを―


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HIRO

こんにちは。
予選まで晴れていたので、雨とは思いませんでした。
雨が降れば、パワーに劣るマシンでも...と言うのが、レースの常識ですが、レインタイヤの性能もBSの方が良かったのと、タイヤ選択(スタート前にウェットレースが宣言されてましたから)のチームとしてのミス(F1みたいに無線が使えませんから、ライダーは交換されたマシンに乗り換えるだけ)もあったのかも。
それにしても、エドワーズの遅れっぷりは、何なんでしょうか??(今回、特に酷かったけど...過去数戦、予選は、良い位置を取るのに(謎))

去年のラグナセカの51ポイント差をひっくり返し掛けた男ですから、ケーシーも成長は見せているけど、未だ不安はあるし...強いヴァレを倒してこそ価値はある...DUCATIコルセとしても、油断は全然していないと思います。
さてさて、どうなりますか
by HIRO (2007-05-22 01:31) 

のらねこ

フランスGPは雨で波瀾のレースだったんですね。
リズラ、雨とはいえ初優勝?(前にも勝ったことあったっけ?)
地上波は今週末なんで、観るの楽しみです!
by のらねこ (2007-05-22 23:30) 

柊なお

 HIROさ~ん、こんばんは♪
 ヴァレンティーノいわく。雨はひどくならないと思ったらしいです。だから、硬めのタイヤをチョイスして。チェンジして最初はよかったですけど…。
 彼だからこそ、の完走だと思います。ヴァレ自身は納得できない結果で。フランスは相当気合が入っていて、一気にポイントを詰めたいところだったのに、逆に離されてしまって。
 去年とは違う。ヴァレはわかってるから深刻なのです。

 コーリンの遅れは、スタートをウエットで出てしまって、そんなに降ってないから、とドライにして、そうしたら本降りになってもう一度ウエットにして、というチェンジぶりで、マシンそのものも寒さと相まって、去年のような問題が再発している、ということなんですけど……。
 2台そろってドヨ~ン。ガッカリです(涙)

 のらねこさん、こんばんは♪
 スタート直後(ひょっとしたらパラリ、とウオームアップのあたりから降っていたのかも)からポツポツして、気がつけばアスファルトが濃くなっていて、あれ?と思う間に水浸しのサーキットに。
 ドライなら、と思うところもありつつ。全くの晴天だったら、やっぱりまたケイシーが行ったんじゃないか、と思うので、難しいな、って。
 ただ、あそこまで降らなければ、ヴァレはこれほど遅れはしなかったろうと思うと……。

 天気はアテになりませんもの。うまく付き合ってこそ。それも勝者の腕ですわ。
by 柊なお (2007-05-25 00:29) 

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