不完全燃焼 [VARIOUS DAYS]
リッパな冬休みを、ゴージャスにもらい、本当ならどこへでも、好きなところで豪遊…というのが“タダシイ過ごし方”だったのだろう。しかし、そうは問屋が卸さない財政事情。ただでさえ厳しいお財布大臣なのに、年末年始なんざジョーダンじゃないよ、の『推進! 寝正月』
東南アジアあたりを何も決めずにフラリと旅することが好きな連れから、「じゃあ、いっしょにマレーシアでも行こうか」と嬉しそうに言われたけれど、上記の通り、お財布大臣から許可が下りるワケもなく、また楓さんと離れるのは至難のワザで、「すまないねえ」とお断りのご連絡。
「私を気にせず、行ってきていーんだよ」と何度も諭したけれど、フンギリがつかないらしい。後半は休みを合わせて取ったというのに、結局恒例の“ジャニーズで年越し”で明けてしまう新年。何も決まっていない。
シフト勤務の連れの仕事は、ボンも正月も関係ナシ。3が日の早番出勤、静まりかえる都内にガラガラのメトロで通勤する。
風邪は良くなりつつあったものの、次々と始まるスポーツに追われ、合間に楓さんと散歩に出かけ、帰ってきたらおせちが待っていた。
そんなこんなで3が日が終わり、何も決まらない状態なら、お互いにそれぞれ、好きなところに行こう、というならそれもヨシ、と勝手に伊豆のわんこペンションの空き状況を確認したが、2連泊できる素敵ペンションが見つからず、けれどせっかく出かけるのだからやっぱり3日は欲しいよなあ、と1泊目下田、2泊目一碧湖でどうだ!?と、まあいろいろ。自分なりに探してみたりした。
だがしかし。
連れは“お正月休み”を、1月から2月半ばぐらいの間に好きなところで申請できる。何も好きこのんで冬休み期間に休みを取ることはないのだ。それを私の休みに合わせてくれている。提案についてハッキリと考えを口に出さないとはいえ、勝手に楓さんとのふたり旅計画を推し進めていくのは、あまりな仕打ち。
『行きたいかも』というアタリをつけておき、しつこい一歩手前までツツイてみる―「キミの好きなところでいいんだよ」
“ないならない”で。『私は伊豆に行こうと思う』とココロの中でコッソリ思いながら。
6日はすさまじい荒天になる、という予報からツーリングはなくなった。ゴージャスな長期休暇なのだ。何も最終日に帰ってくることはない。サイアク6、7日の1泊2日だ。
8日は休養日。という希望も、“悪天候”と“考えは皆同じ”に阻まれ、サイアクを上回る『想定外』の7、8日に、なんと新幹線で東北旅行に出るハメになってしまった。
東北―
大好きだ。日光、那須はほぼ毎年行っているし、1度行った青森は私を一瞬でトリコにした。
初代の赤いハニーから、2代目の青いハニーに乗り換えるとき、スタッドレスタイヤを処分してしまった。冬に山へ出かけたことは若かりし頃にはあれど、今はもうたぶんほぼ100パーセントないからだ。関東に雪が降らない、という保障はないが、一日二日の積雪に、慌てて雪準備をしておくことはない。これまたサイアク、チェーンを巻けば済む話だ。
だから、この時期に東北や上越、長野を訪れるにはハニーとではなく、電車を使うよりほかにない。新幹線を見るとウズウズしてしまうムシをその身に飼っている私としては、どこにするにも乗ったことのない子に乗れる!と、ちょっとわくわくしてみたりした。
「東北がいいかなあ、と思ってるんだけど」
電話の向こうで言う。
「中尊寺とか、キミは好きだと思う。一ノ関に泊まって、松島行って、仙台から帰ってくるプラン―どう?」
いいねえ、と本当なら思うところだ。いや、思わない方がおかしい。
といった一文が差し挟まれてしまうのだから、この段階では残念ながらノリノリというワケではなかった(ダメダメである)。
なんだかんだで結局、激安プランに納まることになってしまったのだが、“最終日は休養日”という当初の希望の真っ先が、マッサキに削除されてしまい、激しくブルーだ。
さらに言うなら、遠くに行くための交通費をかける場合、なるべく当地での滞在時間を延ばし、ガッツリ過ごしてくる、という貧乏なりの楽しみも、1泊2日、という最短時間(の中で最も長い時間にはしてみた)になり、お財布大臣の許可がなかなか下りないということを考慮する“駅前のビジネスホテル”は、食事はもちろん温泉もないドライぶり。
新幹線で乗り込むのだから、駅からバスなりタクシーなりで数十分揺られる自然豊かな旅の宿は、たぶんに便利ではないし、宿周りではなく電車に乗って観光する予定であれば、駅前は最重要事項だろう。食事がついていないのなら、美味しいと評判の店を探しに出ればいい。
何もガッカリすることはないのだが、パンフレットやポスターで見る、『雪景色・露天風呂』の寒々しさと温かさと、山深い場所でふたりきり、なんていう“温泉でしっぽり”は、やはり東北旅行の醍醐味である。捨て切れん(本音)
宿に着いたら、お茶菓子をつまみ、早々と温泉につかる。部屋出し、もしくは囲炉裏ばたの夕食をゆっくりと楽しみ、テレビの音のしない部屋に戻って本を読んだりして過ごす。冷えてきたな、と思ったらもう一度温泉に向かう。
露天風呂で雪見もいいが、内風呂でじっくり温まるのもいいだろう。時計のない部屋で、美味しい食事と手触りのいい温泉、目に優しい景色を楽しむ。
それが私の望む、冬の東北旅行だったのだ(しみじみ)
旅の友“やまびこ”…やはり新幹線はイイッ |
平泉駅に到着 |
毛越寺の本堂 ああ、雪景色だったなら(未練たらしい) |
寒々しいですが…雨です |
手前の方に薄く氷の張っている個所も |
中尊寺の本堂 |
遠くに来た感じがします |
そう。予算があればもちろん可能だ。
自分のふがいなさに歯噛みする思いだが、いたしかたない。アタマを切り替え、ホテル近くの日帰り温泉を探すことにする。“駅前からタクシーで15分”の文字。行けそうである。『ゼッタイに行ってやる』と、ココロひそかに思ってはいたが、現地に着いて“雪見”は早々に諦めざるを得なかった。
新幹線の車窓からも雪はカケラもうかがえず、いつになったら白い世界に出会えるのかと心待ちにしていた連れも、雨の仙台を過ぎるころには多くは望むまい、と思ったらしい。
結局一ノ関到着後も雨は上がらず、ホテルに荷物を預けて再び駅へ戻り、1時間に1本しかない東北本線を待ち、平泉駅改札を出たところにある一軒でビニール傘を購入するほどに、雨は降っていた。
1本の傘では足りない気もしつつ、ナイロン生地のダウンジャケットなら、フードをかぶれば大丈夫、とタカをくくって歩きだす。毛越寺へ向かった。
たいした距離ではなかったけれど、やまない雨は鬱陶しいことこの上ない。これが雪ならまた東北らしく、いい風情になっただろう。車は時折通り過ぎるが、歩いている人の全くいない雪景色の平泉。寒さの中で身を寄せ合いながら、静かに歩くのはなかなかに悪くない。そう思ってしまうから、現実の雨はサイアクに鬱陶しい。
“相合傘”は、大きなコウモリでこそのもの。ケチなビニール傘では雰囲気を出すどころではなく、ダッフルコートの肩が濡れるのを見るにつけ、「私は平気だから」と傘の下から逃げだした。
毛越寺到着後は、お寺で傘を借り、のんびりと巡った。
本堂は、平成元年に建立されたものだが、見事な平安様式でウットリ見とれてしまう。その右横に広がるのが臨池伽藍跡と浄土庭園である。
“跡”であるだけに、建物はすべて焼失してしまっている。しかし本堂からの雰囲気を感じれば、ここがどれだけすばらしい、豪奢な場所であったかを想像することは可能だ。奥州とはいえ、巨大な権力をその手に収めていた藤原氏の力を改めて思わされる。
想像してしまうと、そのすごさに、また現実に見ることのできない気持ちを、心の底から残念に思った。本当にもったいない。
さらにやはり。雨ももったいなかった…。これが雪であったなら、と思わずにいられない。真っ白な雪と緑の木々のコントラストに、氷張る池。『冬の東北を訪れている』という事実を目からも確かめてみたいじゃないか。
サイトに掲載されていた写真を見たら、あの残念さがこみあげてきてしまった。ああ、不完全燃焼が続く…。
引き続き、雨に濡れながらの道中。中尊寺に向かう。風が強く、フードは押さえていないと脱がされてしまう。さほど寒いとは感じなかったが、フードを押さえるために額の上に出しているグローヴが濡れる。両手ともに濡らすことはない、と腹を決め、まだ被害の少ない左手をポケットに入れ、右手だけで押さえることにした。
スエードの綺麗なグローヴなのだ。汚したくないし、傷めたくない。素手なら冷たいだけだろ、と思い1度は外したものの、雨とはいえ冷たさは冬のもので耐え切れなくなった。
中尊寺へと上がる山道は、勾配がキツく息が上がる。ほとんど会話もなく、ただひたすら足を動かすだけになってしまうが、もうそれもしかたないし、煽っても盛り上がらない気分はどうしようもなかった。
何でこんなにダメなんだろう、と自分でも訝しく思ったけれど、無理にもどうにもなってくれない。求めていた風景が、目の前に出てきてくれなかったからか、とにかく何を見ても、ココロの動きが鈍くて重い。
本堂で写真を撮り、お参りを済ませた。その奥にある金色堂へと進む。讃衡蔵をゆっくりと閲覧、冷えた体が暖まった。そして金色堂だが、名前は知ってはいたけれど、どういう存在なのか全く知らずにいた私は、黄金色に輝くお堂が四方をガラスで囲まれた中に鎮座していることに驚き、少しショックだった。
博物館の中の芸術品を観る雰囲気で、ゴージャスぶりは十分だったが、そばに寄ることのできない距離に物足りなさを感じてしまう。
『せめてガラスばりでなかったら…』と、今もやはり思ってしまう(こればかりはもーうしょうがないだろう←諦めろよ)
中尊寺から平泉の駅へと戻る道で、雨はやっとやんだ。ブーツのつま先からにじんだ雨が靴下を濡らして冷たい。グローヴもすぐに乾くものでナシ。フードの周りを飾るファーが濡れそぼってカワイソウな具合だ。
駅前の泉屋さんで、遅いお昼のおそばを食べた。素朴な味で美味しい。温かさがお腹に沁みる。名物の“泉そば”を注文すると、ご主人が口上を聞かせてくださった。本来ならば予約しなければ聞けないが、夕方近い時間でお客さんは私たちの他にない。お神酒をいただき、お店の由来を興味深く聞いた。
駅へと向かい、1時間に1本の東北本線を待つ。待合室には大きな石油ストーブが置かれている。ベンチに座り、ぼんやりと駅舎を眺めていた。待ち時間は約30分。都会なら到底待てる時間ではないが、ここにいると『しかたないな』という気持ちになる。
うたた寝でもして、とまぶたが落ちそうになった頃、駅長さんが待合室に顔を出した。
「どちらまで行かれるんですかね?」待合室に座る4人の顔を見回して聞く。訛りは全くない。
「仙台まで」という女性に、「一ノ関に」という私たちと、下り方面のとある駅名を答えた女性。
「強風でねえ。電車動かないんだって。今、遅れてる電車が3駅ぐらい手前にいるんだけども、いつ動くかちょっとわからなくてねー。バスがあるから、それに乗った方がいいと思うよ」と教えてくれた。
この日は朝の新幹線も強風のため、減速運転を余儀なくされており、私の乗ったやまびこくんも定刻より10分近く遅れての一ノ関到着だった。また、一ノ関から気仙沼方面に向かう大船渡線は全線で運転を中止していた。
ホームや改札口を出てからも、風の強さを実感できず、「はて?」という感想ではあるが、風の吹き抜ける場所があるのだろうと思うに留めた。そんな状態だったから、平泉へ向かう東北本線も果たして無事に動いているのか、と行く前から思っていた。
すんなり諦めて『しょうがないねえ』とほんのり思い、バスの出発時刻とかかる時間に運賃などを聞く。待ち時間とかかる時間を考え、何となくもういいか、という気分になった。「タクシーで戻ろう」と駅舎を後にした。
「日帰り温泉に行く?」と聞かれたが、すっかり日が暮れてしまった空を見て、少し疲れてしまった。温泉につかって、ふう、とひと息ついた後、再びタクシーに揺られて戻るには、気力が足りないと思われた。
「もういい」と答え、部屋に入り、テレビをつけて『ちびまるこちゃん』と『サザエさん』を見た。
ホテルに温泉があったなら、それはもう間違いなくウキウキと準備をして、すぐにも飛び出していっただろう。露天風呂があると、なおいい。1時間はあっという間に過ぎ、ひょっとしたら“気がついたらもう8時!?”なんてことになっていたかもしれない。
到着してすぐに、考えていた厳美渓に観光を兼ねて行き、そこでのんびりと過ごすのも、また一案。けれど、しとしとと降り続く雨に、その気を殺がれてしまった。それにもちろん、連れは平泉を訪れたいと考えていて、寺社仏閣を巡るのに、夕方遅くはない話である。
いろいろ思い返してみると、やはり日帰り温泉をこの旅程に組み込むのは至難のワザだったのだ。この文章を書いていて、そのことを納得するに至り、それならそれで、必ず達成しなくてはならない、という気持ちになってきた。
不完全燃焼は体に良くない。雪と温泉を求めて、再度臨みたい。
こんにちは。
お疲れ様でした。
散々な旅行でも、そっちの方が印象に残ったりしますね。
リベンジする動機が得られただけ良かった...位に思いましょう。
by HIRO (2007-01-19 12:10)
岩手は父の実家があるので何度か行ってるんだが、平泉界隈はないんだよなぁ。
昔ラグビーで名を馳せた街だったんだけど、今では・・・ねぇ。
by (2007-01-19 16:13)
HIROさ~ん、こんばんは!!
印象に…確かに忘れがたいような(とほほ)
雪はともかく温泉がねえええええッ
そういえば最近、温泉に入っていないな、とか思ったり。
楓さんと旅行に行きたいな、と思っていたのですが、まだちょっと無理なので、それまでにおこづかいをためて、ガツーンと行ける日を楽しみにしておりますうう。頑張るッ
放蕩息子さん~、こんばんはッ
わああ、よいですねええ~<岩手
いいところがたくさんあります。やはり東北はいいッ
平泉、冷えてきてしまって、ちょっと残念だったのですが、ゆっくり義経巡りができたらよかったなあ、って。あと、毛越寺の焼失が…。
残っていたら、ものすごかったのでは!?と。とても広い敷地だし、ゴージャスだったろうな、って。さすが藤原氏ですわ。
ラグビー、といえば大学選手権決勝。関東学院大、力強かったですねえ。早稲田がミスしまくって、ビックリでした。どうした!?って。
もともとスロースターターなとこもあるけど、それにしても…。
ミスを絶対逃さない関東学院大。あの強さはすごいなあ、って。
よい試合でした。来シーズンは彼らに追いつきたいッ
by 柊なお (2007-01-22 21:29)
こんにちは。
温泉ですか...
房総にも色々ありますよ。
以前、義妹が関西から遊びに来た時、自分の仕事の都合もあって最初から付き合えずに、先に相方と電車で旅行させて、海辺の日帰り温泉の露天風呂とかを堪能して貰って、後からピックアップしてone-two-8で食事して...って事もやりました(笑)
by HIRO (2007-01-22 23:15)
HIROさん、こんばんは~♪
房総…ゆっくり泊まりで行くのもきっと贅沢でよいのですよねえ。
でも。“帰れるわ”と思うとなかなか。ケチィです(涙)
海辺の日帰り温泉(露天)は、稲取あたりで入ったことが。
んもー、まさに海。何気に道路から覗けてしまうのではッ!?というぐらいの見通しの良さ。すばらしかったですわあ。
そうかー。房総にも絶景露天風呂があるのですね!
うん。近いうち、行ってみようと思います~
by 柊なお (2007-01-25 00:15)