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欧州チャンピオンズリーグ決勝 [FOOTBALL]

 アーセナルの悲願を知っていた。





 

 気持ちの強さでは、アーセナルが勝っていたように思う。キックオフの瞬間から猛烈なラッシュをかける黄色いユニフォームに眼を見張った。すばらしかった。ドキドキした。嬉しくて。






 

 大好きなライキーがいて、かわいいロニーがピッチを跳ね回るのを見ることは、とてもとても楽しいし、幸せなことだ。ソシオの一員として、届けられる会報を、いつか辞書なしで読めるようになれればいい、と思う。そのときにはスキップしながらカンプ・ノウのゲートをくぐるだろう。いつかきっと、そういう日が来ると思う。夢ではない。
 チェルシーに敗れ、道が途絶えた。悔しくて泣けた。何がいけなかったのか、何が足りなかったのか、と考えてもしかたないことをグルグルと考えてしまった。

 何が足りなかったのだろう―
 終わってしまったことだ。“たら・れば”まじりのタワゴトは、夢にすらならない。意味のないことだ。時間を止めて、脳内で勝手な再生。“ここでこうなっていたら”
 わかっている。意味はないことを。わかっている。もう終わったことだ。

 夜が明けていく窓の向こうが、少しずつ薄い青になっていくのを感じながら、アーセナルが勝つといいな、と薄青い空みたいに思っていた。それもまたいいことだ、と。まるでひとごとのように。




 

 “たら・れば”は意味がない。それでもまだ。
 『あのとき、レーマンが退場にならなければ―』

 


 

 キックオフから15分。一瞬たりとも目を離すことができなかった。ひと眠りしてアラームを鳴らす午前3時半。手探りでリモコンのボタンを押す。ブラウン管が目を覚ますまで時間がかかる。音声が状況を伝えてきた。
 こんなに気持ち良く目が覚めるのなら、毎朝ゲームをやってほしいと思うぐらい、彼らはすばらしい立ち上がりを見せていた。特に黄色いユニフォームは、すばらしかった。ブラウ・グラナを圧倒し、ゴールに詰め寄った。バルデスはよく守っていた。

 猛ラッシュを浴びることになったバルサ。圧されて驚いたようだったが、徐々に動きを早めていく。ロニーへのプレッシャーは相当なものだが、中盤からの突破口を見つけようと動き出した。一瞬のスキを見逃さない。ゴール前でエトオに出たボールは、その後の決定的シーンを簡単に予想させた。

 前半18分。アーセナルGKレーマンにレッドカード。
 フリーのエトオの前にボールが出た。ペナルティエリアから、足元へ滑り込んだ。彼の手がボールに触れたのは、ペナルティエリアのほんの少し外だった。エトオからのボールをジウリィがシュートした。ネットを揺らしたのはバルサ。だが、無情にもその得点は反映されることはなかった。シュートの前に笛。どちらにも全く歓迎されざる笛が鳴り響いていた。

 GKアルムニアとピレスが交代。ピレスは私にとって非常に魅力的な選手。久しぶりにしっかりと見られる、とワクワクしていただけに本当につらかった。
 それより何より。レッドカードのために、バルサのゴールは無効となり、FKでリスタート。PKならまだしも、の場面。ロニーは表情からして固く、ゴールは遠ざかる。
 思い出すユーロ。早い時間に10人となったイタリア。オランダは攻めに攻めまくるも、カテナチオを崩すことができず敗退した。ハンデを背負って、逆に研ぎ澄まされた感覚。高みに導かれたアズーリ。すばらしかった。勝てない、と思い知らされた。あのときのオランダにも、何かが決定的に足りなかった。

 バルサはライキーの考え方もあるけれど、ゲームをまず楽しもう、という気持ちが強い。彼らの見せるサッカーからもそれは感じられるはず。ロニーの表情がそれを表している。目が輝いている。もっとも楽しいことをしているんだ、と知らせてくる。
 その空気がピッチの上に伝わる。同じユニフォームを着ていれば、こんなに頼もしいことはない。いっしょに楽しもう、という気持ちになるのは想像に難くない。
 あの子がいないと、火が消えたようになってしまう。それはうれしいことではないな、と苦々しく思うこともあるけれど、だんだんあの子の留守中の戦い方を、それぞれが考えるようになってきた。
 昨シーズンの悔しさも含めて、彼らは確実に強くなっていた。私はここまで、負ける気がまったくしなかった。ミランを前にした準決勝も。少しぐらい感じるかと思っていた“負けるかもしれない”を、杞憂も入れて、微塵も感じなかった。本当に。何も考えることはなかった。ただひたすら彼らの見せてくれるゲームを楽しみにさえしていればよかった。


 

 

 ヴェンゲル監督が好きだ。アーセナルにはデニス(ベルカンプ)もいるし、ピレスもいる。お気に入りの選手が多い、プレミアでは一番気にしているチームだ。特別だと言ってもいい。決勝の相手がバルサでなかったら、私は死ぬほどアーセナルの勝利を願っていただろう。

 アンリのFKを、ソル(キャンベル)が完璧に決めた。動けないゴール。思わず“キターッ!!!”と立ち上がってしまうほど。どこかで予感していたのだろう。驚きは少ない。レッドカード直後のFKをロニーが外し、どことなく10人となったアーセナルに遠慮しているように、少し動きが鈍っていた。1点ビハインドで、逆に吹っ切れるのではないかと、これで思う存分遠慮なく仕掛けていけるんじゃないか、と背中を押された気になった。
 そして同じぐらい、やはり大舞台で追い詰められたとき、強いチームというものは、それすらも力に変える、と尊敬の念が生まれていた。


 

 後半。がっちり守る黄色いユニフォームのラインを崩せない。ロニーの動きに磨きはかからず、苦しんでいた。セットプレイのチャンスもほとんどない。どうしたらゴールを割れるのか、時間とともに難易度が上がっていくような気がしてきた。
 勝利には2点が必要だ。なんとか同点、でもPKになれば勝ち目はない。全くない。濃密な時間とはいえ流れていくものを止めることはできない。いつもなら焦りだすところだ。勝てないかもしれない、と思い、両手を握り締め、祈るように画面を見つめるところだ。
 なのに今日に限っては。
 穏やかでいられた。全く動じることはなかった。うっすらとこのまま。アーセナルが勝ってもいいと、思っていたからか。彼らの、どうしてもここだけは、という強い気持ちを感じていたからか。悲願を知っていたからか。ヴェンゲル監督の思いを受け止めていたからか。バルサにはまだ次が、あると思っていたからか―。



 

 “次がある”なんて、誰も約束してくれない



 

 正直に言おう。バルサの勝利がここまで複雑に感じられたことはない。
 後半、降りだした雨は、画面に白く映り、時折ひどく映像が乱れた。ベレッチの2点目直後から、数分間、動かない画面のまま実況を聞いているだけだった。スタンドで焚かれた発煙筒の煙とまざりあい、白くなるピッチ。試合終了のホイッスルが鳴り、ブラウ・グラナが跳ね回った。
 あちこちで抱き合うバルサ。よかったね、と思いながらも、やったー!!!と万歳をする気持ちにはなれなかった。
 雨に打たれながら勝者を見つめるアーセナルに、何を思えばいいのかわからなくなった。大きな喜びの前に、大きな悔しさがある。バルサに感じた“次”は、アーセナルにあるのだろうか。そこで返せばいいと、すぐにチャンスはくるのだから、と私は彼らに言うことができない。ここが一番のチャンスだった。あと1つ、あと1勝だった。そのことを、彼らもわかっているように思えてならない。だから、再三、アーセナルが勝つといい、と口にはしないまでも、ひっそり思っていたのだろう。


 

 アーセナルは力の限りを尽くした。このゲームに“楽しみ”はなかっただろう。レーマンが退場になる前から、彼らの中に“楽しく”という気持ちはなかったと思う。しかし、彼らのサッカーは美しかった。前半15分までに見せた強い輝きはすばらしかった。ゴールシーンより脳裏に焼き付いている。忘れることはできない。
 『レーマンが退場しなかったら』
 アーセナルが勝っていたかもしれない。それはわからない。
 だが、美しいサッカーをもっと見せてくれたことは間違いない。ピレスのプレイももっと見ていられた。だから、意味のないことだとしても、ムダなことだとわかっていても―。

 もっと見ていたかった。ただひたすらそう思う。 


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コメント 5

nyasublog

私は完全アーセナル応援でした。ひたすら悔しかったです。アンリのFKをキャンベルが押し込んだときは相当興奮し、このまま逃げ切りを期待しました。しかしそうはなりませんでしたね。
もっとピレスを観たかったし、最後にベルカンプ観たかったですよねえ。
by nyasublog (2006-05-18 23:38) 

レーマン退場でとばっちりを受けたのがピレス。
そしてバルサの決勝ゴールはベレッチ。
ともにドイツ大会に名を連ねてないんだよね。
もっともレーマンにレッドカードは妥当な判定。
その分代表で・・・ってわけにはいかないか。
by (2006-05-18 23:42) 

マリンかもめ

11対11での試合をもっと観たかった・・・負けたのは残念でしたが、
それを見れなかったのがもっと残念でした。
by マリンかもめ (2006-05-19 00:27) 

まえまえ

亜細亜のリズムに慣れてしまうと、別世界のサッカーを見てた気分です
退場は残念だったけど、それでも形にしようと懸命にバランス取ってたのが印象的でした
※ソシオなんですか?! そりゃ凄い!
by まえまえ (2006-05-19 10:00) 

柊なお

 にゃすさん、こんばんは~♪
 ピレス…。本当に楽しみだったのです(涙)
 もっと見ていたかったな。
 試合終わった後、喜びに沸くバルサと、同じ気持ちを分け合えると思っていたのですが、なんか泣けてきて。不貞寝のように、もう一度布団に潜り込んでしまいました。
 デニス。見たかったです…。ただただ残念。そして、ベンチで項垂れるヴェンゲル監督は見たくなかったな。

 放蕩息子さん、こんばんは~★
 レーマン…厳しかったです。さすがの彼もエトオのフリーは慌てたのかな。
 エトオは、“ヨシ!!”と思わずテレビの前で声が出たシュートをポストに阻まれていて、さらにこのファウルもあって、ああ、今日はダメかもしれないな、と思っていたのですけど。
 同点ゴール、すばらしかった。強い子だ、と心底思いました。頼もしい存在です♪

 マリンかもめさん~、こんばんは★
 本当に。ただひたすら11対11のゲームを、がっぷりよっつで見たかったんです。そのうえでの勝敗は、嬉しくも悲しくも、ちゃんと受け止めたいと思って。
 それでもきっと“たら・れば”は、いくつか思っちゃうのだろうけど、今ほどじゃない。絶対に、これっぽっちの疑いもなく、ゾクゾクするようなゲームになっていたと思うから。もったいなくて、悔しくて。今さらあれは、なんて言ってほしくなかったです。

 まえまえさん~、こんばんは♪
 キックオフ直後から、猛ラッシュでしたね!! 一瞬で眠気が吹っ飛びました。うおー、アーセナルすばらしすぎるッ!!!!って。思い出すだけで鳥肌立ちます(うっとり)
 バルサも、“よっしゃあ、やったるでぇ”な動きだししていたから、あれがなければ(また、たら・れば、だけど…)本当に、超スペクタクルなゲームが展開されていたはず!!! もったいなかったですよーう。
 アーセナルの、必死さが、苦しかったです。つらいな、って思いながら、それでもいいプレイをたくさん見せてくれてた。アシュリーもリュンベリもすばらしかった!
 バルサは、よく頑張りました。彼らの成長ぶりは嬉しいかぎりです。うまくいかないと“やーめた”とか言い出しかねない時期ありましたもん(困りモノ)

 ソシオはネットで申し込んで。カンプ・ノウのチケットも、ちゃんと取れるんですけど、まあそりゃあなかなかね…。なので日本に来るときぐらいは、しっかりきっちりと思っていて。
 楽しみです♪
by 柊なお (2006-05-20 03:50) 

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