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井川 慶 [BASEBALL]

 京都で生まれ、10歳まで大阪で過ごした。3つ下の弟は、気がつけば阪神ファンになっていた。
 だから私も阪神ファンだ。なんで“だから”なのかはわからないが(汗)

 私の阪神ファンぶりは、かなり気合が入っていた。中学高校時代は相当熱かった。当時はレプリカユニフォームなぞなくて、みんなそれぞれのハッピを着ていたものだ。応援団の方々の黄色いジャージは健在だけど、昔はサテン地のハッピに、好きな選手の背番号と名前を背負っていたのである。
 一番多かったのは黄色いサテンに、7番は山ほどいた。31番も多かった。44番、16番といて、8番も人気だった。そんな中で私は、白いサテンに30番だった。少なかった。

 後楽園球場のチケットはなかなか取れず、横浜スタジアムは遠く、必然神宮球場が出没ポイントだった。レフトスタンドが定位置だった。各回の表は立ち上がり、裏は座っておとなしくしているか、売店をウロついていた。
 7回前の風船飛ばしは、毎回誰かから風船をもらっていた。黙って座っていても、どこからともなく風船は回ってくるのだった。

 90年代は暗黒だった。ちっとも勝てなくなってしまった。次々と栄光の日本一メンバーが引退し、好きだった選手がトレードに出され、タイガースは私にとっての魅力を失いつつあった。そんなときに私は違うスポーツに出会っていく。ラグビーにバスケットボールだ。





 関東大学ラグビー対抗戦。トリは毎年早明戦だ。何がきっかけだったかは忘れた。観るようになって、紫紺のジャージ11番にクギ付けになった。サイドラインをまっすぐに駆け上がる彼は、誰よりも速く、そしてカッコよかった。
 早稲田と明治は力五分。どちらが勝ってもおかしくなかった。毎年熱い早明戦だった。

 最近の明治は弱かった。なぜか弱かった。ちょっと見ない間に、ずいぶんと弱くなってしまっていた。早稲田に負けつづけ、対抗戦順位もひどいものだった。早稲田は強く、慶應が続き、明治はその後をうろついていた。
 今年はシーズン前から復活の声が上がっていた。けれど慶應に負けた。3点差で負けた。だが帝京を完封した。そのゲームでは、明治は以前の荒々しさよりも、バランスのよい、丁寧なプレイが目立つように思えた。ちょっと変わったのかもしれない、と感じた。

 慶應が早稲田に敗れ、全勝の早稲田と1敗で当たることになった。
 勝てば並ぶ。久しぶりの優勝が見える。頼む、勝ってくれ、と祈るように試合開始のホイッスルを聞いた。


 完敗だった。
 清宮監督のいない早稲田だが、そんなことは関係なかった。スクラムハーフの矢富のすごさに圧倒された。開始10分で思い知らされた。
 早稲田のラグビーに惚れていたら、人生変わっていたと思う。たぶん、全然違うことを今やっていたと思う。自分自身も、周りの環境も、全然違っていたと思う。

 そして。今日のこの試合を、ウキウキで観ていたと思う。

 負けたけれど。いい試合だった。よくやった、と思えた。あまり負けた試合を褒めることはないが、前に進める、これからに楽しみができる敗戦だった。大学選手権を、心待ちにしている。





 野球のない季節に、違うスポーツが入り込んできた。バスケは当たり前のようにNBAを観ていた。マイケル・ジョーダンのいるシカゴは、鬼のように強かった。
 観ているうちに、いろいろなチームに、いろいろな選手がいて、そこかしこでお気に入りの選手ができていった。オーランドのアンファニー・ハーダウェイが大好きになった。彼を観にアメリカへ行ったぐらいだ。目の前で観た、彼とグラントのアリウープは心臓が止まるぐらい嬉しかった。
 ペニーのことは、今でもやはり好きだ。忘れることはない。

 サッカーはこの後である。

 野球は常に身近にあり、どんなことになっても情報は入ってきていた。積極的に欲しなくとも、どこが勝ち、どこが負け、誰が活躍し、どうなったか。一日の最後にスポーツニュースをチラリと観れば、まあわかったような気になった。
 阪神は弱かった。だいぶ放りっぱなしにしていた。








 優勝した翌年の開幕戦。東京ドームの巨人戦を観た。
 ゴージャスな内野指定席で、井川慶を観た。

 クギづけだった。その1試合で完全に持っていかれた。なんてカッコいい男なんだ!と、たまらなく好きになってしまった。私はいつもこういう人間である。
 同じぐらい夢中になったのは、センターの赤星だった。彼の足に魅了された。彼が出塁するとドキドキした。彼の走っている姿に惚れた。

 去年から千葉ロッテ・マリーンズも応援している。直行が好きで、福浦に惚れたからだ。彼は1塁手だが、守備ではなく、出塁したときの1塁にいる福浦が大好きだ。その姿だけで満足できる(フェチである)。




 夢中で追いかけていたが、その年はしんどかった。ここぞ、の一戦を落とし、“エース”としての責任を果たすことはできなかった。彼自身がどう思っていたかはわからないが、周りの評価は厳しいものだった。
 そしてシーズンオフ。「メジャーリーグに行きたい」

 球団と初めて真正面からメジャー行きについて話し合ったオフだった。フリー・エージェント権取得まで待てない、と井川慶ははっきりと告げた。しかし当然のことながら、20勝投手を、エースである彼を、阪神は手放すつもりはなかった。ポスティングシステムでの移籍交渉は不可、と井川慶の希望を却下した。
 私自身はホッとした。もう少し彼を日本で観ていたかったからだ。阪神タイガースというチームに、井川慶はなくてはならない選手だと思っていたからだ。

 あれから2年。あっという間だった。2005年、チームは再び優勝し、日本シリーズを迎えたが、千葉ロッテの前に4連敗を喫した。初戦を私は千葉マリン・スタジアムで観た。井川慶が先発だった。濃霧コールド、というとんでもないオマケのついた試合だったが、大敗したことよりも、途中から崩れた井川慶が悲しかった。
 彼が崩れる前に、何もできなかった打撃陣が悲しかった。

 日記では、“次の登板”を考えていた井川慶だったが、“次の試合”は、やってこなかった。

 2005年のオフは、彼はメジャーの話をほとんどしなかった。





 シーズン終盤、首位中日を必死で追いかける阪神。しかし肝心の直接対決で勝ち切れず、2位に終わる。そして、さまざまな意味で、どうしようもなさを露呈した日米野球に登板。6回2失点でなんとか凌ぐ。この時の投球は、彼の中ではもうすでに、違う意味を持っていたのだろうと思う。
 すべてが終わった11月10日。井川慶は阪神球団から、ポスティングシステムによるメジャー挑戦を認められた。

 わかりきっていた展開だった。ふーん、とただ思った。嬉しそうに、やっとここまで、という安堵の表情を浮かべた井川慶を見て、よかったねえ、と他人事のように思った。うっすらと、胸苦しさを感じながら。

 それまでは、メジャーに行きたいという彼のニュースを見るたびに、「もうとっととどこへでも行きやがれ」と半ばキレかけて思っていた。この日の笑顔も、彼の言葉も。私には彼のメジャーリーグ挑戦への気持ちの強さを、思い知るとともに、「2度と帰ってくんな」の気持ちだった。
 好きだから余計に。日本にいてほしかったし、日本の野球をもっと魅力あるものにしてほしかった。だけど、彼の中では『日本のプロ野球<メジャーリーグ』だったことが、私とは相容れず、悲しくて悔しかった。そしてそんなことは、彼にとって何の重みもなかった。関係ないことだった。

 「阪神代表として、日本代表として」
 サッカー好きな井川慶らしく。サムライ・ブルーを夢見るように、彼は言った。「勝手なこと言うんじゃない」―私はまだ、イライラしていた。




 応札があり、阪神はそれを受諾した、というニュースが流れ、相手がニューヨーク・ヤンキースだとわかった後の記者会見の席で嬉しそうに笑う井川慶を見た。あんな表情を見るのは初めてだった。お立ち台の上で、フラッシュを浴びながら、インタビューに答える彼の笑顔は本物だったんだろうか、と思うほど、晴れやかな、自信に満ちた笑顔だった。
 それほどにもメジャーリーグは、彼にとって夢の舞台だったのか、と改めて思い知らされた。

 そして。その晴れやかな、最高の笑顔の井川慶を見て。初めて私は、とめどない淋しさを感じた。それはもう涙が出るぐらいに。





 今でも実は。とても淋しい。ジワジワと淋しさが胸に広がっていく。彼が明るく、最高の笑顔を見せるたびに、私は蝕まれるように淋しくなっていく。
 「とっととどこへでも」と、やっぱり思うし、片隅では、メジャーでも勝ってほしい、と思っている。活躍してほしいと思う。ただそれを、手放しに思えないし、まだ喜んで送りだそう、という気持ちにはなれない。

 ファンならもっと。
 彼の意志を尊重しなくてはならないんだろうけどね。







 「狭量なヤツめ」しみじみ思う。情けないよ。
 「もう来年は」と思うと、また悲しくなる。















 赤星、頼む
 また私を夢中にさせてくれ


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コメント 5

ファンにとっては複雑な心境なのですね。
わたしは、井川のファンではないですから、行く限り頑張って欲しいと思っています。
by (2006-12-04 11:59) 

柊なお

 シンナツさん~♪
 素敵な淡路島、楽しそうでしたわあ(うっとり)
 私も楓さんとご一緒に、とか思って。めちゃくちゃ行きたいですーッ
 常宿さんのようで、ますますうらやましく。素敵ですvv

 さて、慶ちゃんです。
 ビックリするほど好きで、もっと観ていたかったです。でも、慶ちゃんには日本よりメジャーの方が合っているんだろうな、って気もします。あれだけ望んでいて、あんなに喜んで。
 何言ってももうしかたないし、送り出すしかないんですけど。淋しい、という気持ちはまだなくならないです。ダメダメですねえ。来シーズン、赤星ダメなら、パリーグしか見なそうな気がしてきました(とほほ)
by 柊なお (2006-12-04 20:47) 

結局生で見ることなく海を渡ってしまった井川なんだよな。
あのチェンジアップは生で見ておきたかったよ。
メジャーでも頑張ってほしいね。先発が手薄なヤンキースなら結果出すでしょう。

ペニー・ハーダウェイ・・・懐かしい名前が出ましたね。
PGとしてのゲームメイクのセンスもずば抜けてたし、
得点能力もあったいい選手でしたよ。
当時のNBAはいい選手多かったよね。
バルセロナ五輪代表だったドレクスラーは好きでしたよ。
ポジション的にもジョーダンがいたからあんまり目立たなかったけど、
いつも得点アベレージではジョーダンのちょい下にいたからね。

それからラグビー・・・今の早稲田は強かった頃の明治のようなFWだもん。そりゃ強いですよ。
そんでもって矢富の存在は大きいね。去年も経験してるし、強みになってますよ。
あとFB(五郎丸だっけ!?)。代表でもあのポジションやっていいんじゃないの!?
なんて思ってるのは自分だけじゃないはずですよ。
by (2006-12-05 00:25) 

まえまえ

いつも記事を楽しく読ませて頂いてます
なぜか内容に親近感を感じる事が多く、妙な感覚なのですが、バックボーンが凄く似ている事が、今回の記事で判明~
※年齢はかなり離れているハズなのに不思議です(笑)

高校時代にバスケットに熱中し、NBAはもちろん衛星放送受信機と呼ばれる時代からの視聴者でした
MJの神的な強さに魅力を感じながらもT.クーコッチのスリーとS.ピッペンのアシストに一喜一憂してました
脇役好きなので、阪神の30番(平田ですね♪)も大好きです

ラグビーはと言えば、小学生時代に地域クラブで接してから長らく離れていましたが、社会人に成ってから「兄ちゃんエエ身体してるね~」と誘われて前列から3列目でプレー(震災で継続出来なかったのが心残りです)
だから選手権とか見ててもつい「潰せ!」とか「掻き出せ!」とか叫んでます(苦笑)
今の関心は社会人リーグ(古い?...今はトップリーグ)の神鋼の弱体化... 不安いっぱいです

そして私も勿論生粋の阪神ファン、井川には苦言も有れば、同時に頑張っても欲しい複雑な心境ですネ
投手王国と言われても、他の若手は安定感に不安が多いですから、出石出身の能美君に期待しましょう♪
by まえまえ (2006-12-05 14:43) 

柊なお

 放蕩息子さん~、こんばんは♪
 慶ちゃん、もう一度、もう一度、って思ってて観られずに終わってしまいました…。今まではそれでも、また来シーズンがあるし、って思えたのですけど。
 海の向こうから、早朝の衛星放送の彼を観るしかないですね(淋)
 結構厳しい紙面やファンの声もあるんですけど、まあそれはあんまり知られてないからもあるんだろうな、って。それでも、やっぱり。あれだけ夢見た舞台で、膝をつくような姿は見たくないし、“だからダメって言ったじゃん”ばりのファンの罵声は聞きたくないです。行くからにはどうやってでも結果を出してほしい。井川慶であってほしいです。

 ペニー
 カッコよかったですねええええ(うっとり)
 死ぬほど好きでした。んもー、一時期はホントに誰より大好きで。
 そうなんですよー、あの時代、各チームにいい選手がしっかりいて、どんなカード観ても本当に楽しかった。すばらしい時代でしたわ(遠い目)
 ドレクスラー!! 渋くてカッコよかったあ。クレヴァーな印象が強くて、素敵だったなあ。あのときは暴れん坊もたくさんいたけど、ドレクスラーやデイヴィッド・ロビンソン好きでした。あ、でもロドマンからは目が離せませんでした。

 早稲田
 強いです。あのバックスに、“強かった頃の明治のようなフォワード”だったら、そりゃあ無敵だよね、っていう。鳥肌が立つようなパスワーク、見事でした。
 ラインアウトって、取られちゃったりするのね、って改めて思う始末。
 いつもながらいいスクラムハーフがいるな、って。すばらしかった。矢富、今まで見た中で一番ですわ。
 五郎丸、体格そのままのプレイぶり。ガツガツ大きなストライドで、ボール抱えて走って。トライする雄たけび。カッコよかったです。決して美しくはないんですけど。タックルとか高かったり、ポカもするし。それでも魅力ある選手ですねー。
 ホントに。代表、イケるんじゃないかなあ。矢富もディフェンスいいし、これはホントに楽しみですねッ

 大学選手権、最後まで楽しめそうですvv

 まえまえさ~ん、こんばんは★
 おおお~、似てましたかー!? まあ、ワタクシ、すごいミーハー道まっしぐらで、いろんなスポーツ観てきてます。いったん好きになると、とことん行くので、たくさんのチームにたくさんのお気に入り選手ができて、ますます面白くなるんですよね~。スポーツはいいです、うんうん。
※年齢…そんな離れてないんじゃああ、とひそかに思うワタクシ(笑)

 シカゴ・ブルズ
 フィル・ジャクソンの肩にはハンガーが入ってるんじゃないか、といつも思ってました(笑)。スーツ着たヘッド・コーチ、カッコよかったなあ。
 ワタクシ、ハーパーがお気に入りだったです~。ひょろり、な感じでvv 友人がピッペン大好きで、よく一緒に夜更かししながら観てました♪ 午前1時とかから放送ありましたよねー。

 最近、「スラムダンク」熱が再発して、漫画読むたびに「ああ、バスケ観たい」って。オールジャパンもうすぐだし、その前にウインター・カップがある~、とウキウキしています。

 まえまえさん、ラガーマンなのですねッ
 やはり関西には聖地・花園がありますもん。うち、父親が京都の生まれで、ラグビー大好きだったのですって。ワタクシ10歳の時に亡くなってしまって、生きていたら、このワタクシのラグビー好きに、うれし泣きだったのでわ!?なんて思ったり。
 社会人はあんまり見ていなくて、でも神鋼には驚いています。どうしたの!?って。今季はサントリー、強いですよねえ。清宮マジック? 永友さんが好きでしたわあ(懐かしい)

 そして阪神
 ファーム、成績いいので、ピッチャーどんどん上がってきてほしいですねー。何気に三東くん、お気に入りです。ピッチャーらしからぬ打撃・走塁センスがあると思うのですけど。肝が据わっているというか、男らしいタイプだと思って、かなり期待。
 能見くんは、今季かなり伸びましたね~。つらい場面で出てきて、よく頑張ってくれました。この経験は絶対生きてくるはずだから。先発ローテ、信じてますわ♪
 サジキとハシケンがグイッと出てきて、忍ちゃんとアンドゥがしっかりふんばってくれれば。そしてシモさんが締める、と。

 来年…楽しみにしよう、って。慶ちゃん、いなくても…。
 頑張りますッ
by 柊なお (2006-12-05 23:08) 

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