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アルゼンチン対コートジヴォワール [FOOTBALL]

 開幕から5試合目。初めてヨーロッパのチームがピッチに現れない試合だ。しかし、歴戦の勇者アルゼンチンの登場とあって、スタンドには水色が波打っていた。


 “死のグループ”と呼ばれていることを、彼らは知っているのだろうか。外から見た勝手な命名だ。知らずにいたとして、何の問題もない。地区予選トップ通過同士のオランダとセルビア・モンテネグロの初戦からすれば、初出場のコートジヴォワールとの対戦が、大事な第1戦となったアルゼンチンに、多少の楽観ムードがあってもしかたないだろう。
 しかし、アルゼンチンにとってその楽観は、いらない力を取り除く、プラス作用として効いたようだ。リラックスした立ち上がり、ゆったりとした余裕のある動きで貫禄を示した。初出場のコートジヴォワールに、その雰囲気は、何か呪文のようにまとわりついてきただろう。

 コートジヴォワールは、フランスから独立したアフリカの小国。公用語はフランス語だ。選手たちの多くはフランスリーグで活躍しているが、中心選手のドログバはチェルシー、トゥーレとエブエはアーセナル所属で、プレミアリーグだけではなく、チャンピオンズリーグなど大舞台の経験も積んでいる。
 そのドログバをどうしてもオフェンスの要として頼ってしまいがちな部分はあるが、それが逆によいまとまりを作っている部分もあり、優れた身体能力や体格を生かして、アルゼンチン相手に序盤は互角の戦いをしていたと思う。

 先制できれば、と勢い込んで前に出たいコートジヴォワールを、いなしながら、ゆったりした流れを作り出すアルゼンチン。リケルメを中心として、彼からオーラが発せられているようだった。
 以前までなら、ピッチのあっちこっちで“オレがオレが”の大合戦。リズムが噛みあい、お互いがお互いをどんどん上昇させていけるときはよいが、崩れてくるとガタガタになり、ファウルが増え、さらにイライラが募り、という悪循環を止めることができずにいた。そういう負の影が、目の前の水色からは感じられない。相変わらずのアピールもあったけれど、強い当たりをしてくるコートジヴォワールに対して、常に優位に立っていた。


 前半24分にクレスポのゴールで先制。けれど実はその前に、押し込んだボールをGKがファンブルしかけたが何とかキープした、というシーンがあった。非常に判定の難しい一瞬で、VTRがスローで映されても、ううむ、と唸るのみ。結局ノーゴールの判定で、ゲーム続行となったのだが、このときのアルゼンチンの反応が、非常にアッサリしていたのが印象に残った。
 入った、と思い、喜び走り回っていたが、ホイッスルが鳴り、ノーゴールと示され、驚きはしたものの、すぐにゲームに戻っていた。大きな抗議のジェスチャーも見られなかった。

 ビッグタイトルの中の一戦で、入ったと思ったゴールが認められなかった、というのは選手にとって相当痛い。精神的な上下動が大きく、沈んだところで流れをさらわれてしまうと、一転して守勢に回ることになる。流れを持っていかれると苦しい。それはどんなチームであってもだ。
 そうなってもおかしくなかった。どちらも取りたい先制点だ。それを手に入れそこなったアルゼンチンは、ガッカリきても全くおかしくなかった。コートジヴォワールはいなされながらも攻めていた。ツケ込むのなら、そのタイミングだったろう。しかし、アルゼンチンは何事もなかったかのように、それまでと変わらず落ち着いた、余裕の表情を見せていた。ツケ入るスキは見つからず、今度こそ、のクレスポ・ゴールが24分に決まるのだ。


 アルゼンチンは磐石だと感じた。やはり強い、と思えた。効果的な追加点、サヴィオラの飛び出しがキレイに決まった。
 コートジヴォワールは、さすがにここでは荷が重い、と思った。よく動いていたし、タフさはアルゼンチンを上回っていた。しかし、そのアルゼンチンは一枚も二枚も上手だった。役者が違った。




 後半。
 まったりした流れを緩くかき混ぜるように、また余裕のプレイで乗り切るのだろうと思っていた。コートジヴォワールの緊張の糸が切れてしまってもおかしくない頃だった―ドログバがいなければ。

 諦めない。大舞台で戦ってきた経験は彼に強い気持ちを持ち続けることを教えた。アルゼンチン相手にも一歩も引かない気持ち。遠慮することなど何もないのだ。牙を剥き、爪を立て続ける彼に引っ張られるように、コートジヴォワールがアルゼンチンに詰め寄る。
 『もうそろそろ…』と思っていたアルゼンチンにとって、後半の中盤に差しかかろうという時間に、弱まるどころかさらに力を強めてきたコートジヴォワールの動きは、この試合初めて脅威に映っただろう。ほんの少し腰が引けた。

 センターライン付近から押される。前半はそこでいなして、ボールを渡さず、パスを回した。もうできない。足元がフラつきだす。おかしいな、という違和感がアルゼンチンの余裕を奪っていく。ゴール前へと向かうコートジヴォワールのパワーを止め切ることができない。タフさは最初から上だった。当たられても倒れない。最後にはドログバにつなげた。82分、1点を返す。



 前にも書いたが、ドログバ頼みは否めない。もうしかたないだろう。しかし、その期待に彼は必死に応えようとしていたし、結果アルゼンチンからゴールを奪った。倒れない、諦めないドログバの姿は、コートジヴォワールの礎だ。彼が引っ張りつづける限り、コートジヴォワールは前に進もうとするだろう。その力にセルビア・モンテネグロは、そしてオランダは勝つことができるだろうか。
 チームとしての完成度はもちろん、選手ひとりひとりの技術も力も、コートジヴォワールは“死のグループ”Cの中で一番低い値だと思う。一枚も二枚もアルゼンチンは上だった。それは間違いない。それでも最後、その役者の違う彼らをヒヤリとさせ、余裕風を止めたのもまた事実。

 気持ちひとつ、かもしれない。
 オランダは危ない、かもしれない。


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コメント 2

なべ

初めまして!SBTC関連で熱いサッカー談義が読めるとは思っていませんでした(笑)。

見ていて緊迫感のある面白いゲームでしたね!
アルゼンチンの試合巧者ぶりが際立ってましたが、ドログバを中心としたコートジヴォワールの攻撃は迫力がありました。
それを受け止めたアジャラを中心としたDFラインも見事!
アルゼンチンも決して体格に恵まれていない中、不要なファールもせず、クレバーな守備を90分間続けることが出来たのが勝因と思います。
日本も見習って欲しいもんだなぁ。
by なべ (2006-06-15 01:47) 

柊なお

 なべさん、こんばんは~♪
 アルゼンチン、強いです。大人な試合運び。オフェンスは速くて美しく、ディフェンスも以前のようなラフな部分が影を潜め、本当にすばらしかった。“太っちょ”ロナウドを抱えて、アドリアーノも不発のブラジルと比べて、全体的な雰囲気は今現在アルゼンチンの方が上ですね。エクアドルもよくまとまっていて、第3戦が楽しみなグループAです。
 日本については、今大会、いろいろなゲームを観てきてレベルが違うな、と思わされるところが多いです。スピードやテクニックはもちろん、気持ちの持ち方、支え方も。

 コートジヴォワールはすごいです。タフさにかけては大会ナンバー1かと。彼らと戦って勝ったチームは、その試合後ボロボロになりそうですが、疲れが癒えれば、かなりの自信になるんじゃないかな、って。かなり希望ですけど。

 いやー、もう毎日毎日エラいことになっていますが、いいゲームを観るとウットリして幸せいっぱいモードに入ります♪
by 柊なお (2006-06-17 04:50) 

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