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カワカミプリンセス [MY SWEET HORSES]

 勝利ジョッキー・インタビューで、本田優騎手は『5年前にね、勝てなかったから。勝つ勝つ、って言っててね』と、話した。2歳女王(当時は阪神3歳牝馬S)に輝き、圧倒的1番人気に推された桜花賞で、2着馬に3馬身差をつけて完勝した彼女は、本当に強かったし、すばらしかった。印象深い、大好きな子だ。
 強い世代の、一番強い子だったと思う。この年は牡馬も花盛りで、キラキラ輝いていた。胸をときめかす子がたくさんいた。生まれて初めて意味を知った上で“3冠”を意識した年だった。―叶わずに終わったけれど。


 

 1番人気に推された桜女王テイエムオーシャンは、オークスで3着に敗れた。
 勝ったレディパステルは、桜花賞不出走。トライアル・フローラS2着からの参戦だった。2着のローズバドはフィリーズレビュー勝ち馬ながら、桜花賞を熱発で回避。フローラS(3着)を叩いてのオークスだった。
 彼女たち3頭は、この華やかなりし世代を代表する牝馬として、牡馬との対戦を含み、熱いライヴァル関係を築いていった。テイエムオーシャンは牝馬限定戦では59キロを背負って戦ったこともあった。濡れた重たい馬場で、59キロを背負って。雨を切り裂いて走る彼女は、最高に綺麗だった。勝ってほしい、と心底思った。

 




 

 “3強”と呼ばれながら、1冠も手にすることができなかった。
 皐月賞と菊花賞を制した2冠馬が誕生したからだ。3番人気の皐月賞で2着、1番人気のスペシャルウィークを抑えての2着だった。続くダービーでは2番人気に支持された。鞍上の福永騎手にとって初めてのダービー騎乗が“3強”の2番人気となった。
 緊張からだろうか。走りたい気持ちをあふれさせるキングヘイローを御しきれない。暴走するように前半から飛ばしたキングヘイローは、直線あっけなく馬群に呑み込まれた。ゴール板を過ぎ、地下馬道へと戻る福永騎手の顔色は蒼白で、言葉も何も見つからないように呆然としていた。

 

 秋、菊花賞挑戦も5着に敗れ、皐月賞馬セイウンスカイが淀3000メートルを鮮やかに逃げ切った。父ダンシングブレーヴ、クラシックディスタンスはいいとして、決してステイヤーではなかった彼は、短いところも使いつつ、GIに挑み続けた。試行錯誤の始まりだ。
 GIII、GIIを連勝し、安田記念に挑むも惨敗。そこからは人気を裏切ることの方が多くなる。短距離GIにも出走、4番人気で馬券になるが勝利には届かない。そしてダートGIへの挑戦。1番人気を大きく裏切った。

 その1カ月後。
 春の芝GI開幕戦、高松宮記念。彼はまたもや4番人気だった。
 前走大敗はダートで度外視、というより、必死に走る彼の姿に“どうしても”という思いを抱いた存在が多かったのだろうと思う。“3強”と呼ばれながら無冠に終わり、ダービー馬はビッグレースで華やかに輝いていた。ヒケをとらない血統に、夢を託した人もいただろう。
 悲願のGI制覇。ああ、やっと、の思いに包まれた。GIはGIだ。変わりない。
 その背中にユーイチくんの姿はなかったけれど。追い込んだ2着馬ディヴァインライトの鞍上だったけれど―。

 それからまた。
 彼はレースに挑み続けた。1度も勝つことはできなかった。掲示板を外すことも多かった。2ケタ着順もあった。GIを制した年の暮れ、ラストランに選んだ舞台はグランプリ・有馬記念だった。
 GIで負けないテイエムオペラオーが圧倒的1番人気に推された年だ。2000メートル以上のレースに出るのは、前年の秋の天皇賞以来のことだった。
 9番人気の彼は、最後方からレースを進めた。広くない中山の、最後のコーナーまで。上がり3ハロン36秒0は、メンバー最速だった。だけど彼の前には3頭のライヴァルがいた。勝ち馬と2着馬が2、3番手の上がりタイムだった。位置取りが後ろすぎた。こらえてこらえて、最後の、そのタイミングまで、グッと我慢していた。
 だからこそ、の最速タイムだった。そうなんだ。わかってる。
 それでも…ホントに最後まで。世話の焼ける、面白い子だったな。
 不器用で。愛すべき。気になって、気がつけば応援していた。



 

 父の走る姿を、そうやって見てきた。
 母の走る姿を、胸をときめかして見ていた。
 競走馬の現役生活は長くない。時代は移り変わる。
 それでもずっと“競馬”が愛されている理由は、そうやって脈々と受け継がれていく彼らの姿にあるんだろう。思いを持って見続けていると、どんどん大きくなって、どんどん広がっていく。
 母の悔しい思いを、息子が叶えてくれたり。父の為しえなかったことを、娘が遂げたりする。

 


 

 CMのキャッチコピーじゃないけど…
 競馬はドラマチックだ。
 49年ぶりに誕生した無敗のオークス馬カワカミプリンセス。
 父キングヘイローに、初めてのGIをプレゼントした。
 彼が暴走した府中の2400メートルで。届かなかったクラシックの冠。


 
 6月生まれで2月のラストにデビューした彼女。あっという間に登りつめた頂上は樫の女王の座。
 ヤマニンファビュルが逃げを打ち、2番手アサヒライジングが絶妙のペースをつくり上げた。後ろを進んでいた1番人気アドマイヤキッスは、ケヤキの向こうあたりからスピードを上げる。
 例によってやはり。馬券は買っていなかったけれど、だからこそ武坊が気になった。長い直線、広いグリーンベルト。アドマイヤキッスとキストゥヘヴンを探していた。アサヒライジングが先頭に立つ。やっぱり。あのペース、ヨシトミ・マジック!!(←勝手な命名)

 キストゥヘヴンは苦しくなった。さすがにあれではもう厳しい。アドマイヤキッスも外を頑張って上がってはきていたけれど。そのときにはすでに、馬場の真ん中を力強くカワカミプリンセスがゴール目指して突き進んでいた。内を走るアサヒライジングをかわし、外から追い込んできたフサイチパンドラを3/4馬身抑える。飛び込んだゴール。初の栄冠。強い競馬だった。

 桜姫は6着に終わったけれど、彼女の上がりは2番手のタイム。悪くない。
 最速を計時したのは、18番人気のマイネジャーダ。しんがりから直線を駆け上がってきた。届くも届かないも、の8着だったけれど。ここにも次が楽しみな子がいる。

 



 

 テイエムオーシャンで勝てなかったオークス。
 キングヘイローが勝てなかったダービー。
 府中の2400メートル。
 ケヤキの向こうを通り過ぎる一瞬。無事に走ってきてほしい、と強く願う。
 広く長い直線を、駆け上がってくる彼は、本当に空を飛んでいた。

 さあ、今週はダービー。
 今度はどんなドラマが待っているんだろう。


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コメント 2

久々に見てて痛快なオークスでしたな。
スローペース症候群を極力嫌うんでね。
馬券参加せずでも面白かったよ。
オーシャンやキングヘイローより気性が素直だから、
折り合いもつきやすいんだと思うよ。

数年前にグッバイヘイローを見てますが、やっぱり名牝。品がある馬でしたよ。

さて今週はダービー。もちろん現場で観戦です。
by (2006-05-23 23:40) 

柊なお

 放蕩息子さん、こんばんは~♪
 オークス、いいレースでしたね!
 アサヒライジング、よかったvv ずっと気になってた子で、距離は延びた方が絶対いいだろう、って。ホントはちょっとコバジュンに乗っててほしかったんですけど…。ヨシトミさん、今年いいですものね。2番手で完璧でしたもんね。
 テイエムオーシャンとキングヘイローは、確かに熱いものがたぎる感じはありましたね。そこが魅力だったし、強さでもあったと思うけど。カワカミプリンセス、無敗のオークス馬として、3歳であの感じ。この先も楽しみたくさんありそう♪ エリザベス女王杯も良さそうですよねッ(←気が早い)

 ダービー
 メイショウサムソン、期待したいです。あとは…やっぱり武坊かなぁ。アドマイヤムーン、あの子、直線長い方がいい気がして。あとはトーホウアランが気になります。
 人気になりそうなフサイチジャンク。早めの美浦入り。良さそうですよね?
 現場観戦、うらやましいです~ッ
 お天気、何とか雨降らないといいですね!!
by 柊なお (2006-05-26 00:37) 

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