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胸に咲いた黄色い花 [CLOVER]

 彼女は感情の起伏が激しい、と思う。すぐ怒るし。僕の言った言葉を、僕の意味するところじゃない受け止め方をして、怒りだす。『そういう意味で言ったんじゃない』って言っても聞かない。挙句の果てに『すぐ意地悪なこと言う』だ。
 思ったことを口にしたまでで、別に彼女のことをどうこう言ったつもりはないんだ。でも、なぜかそれが気に入らないみたいで、怒る。ゴネてるようなときもあるけれど、ヘタをするとそのまま運気が下降線のときもあって、そうなると手がつけられない。
 本当に機嫌が悪くなると、話をしなくなる。僕の方は、何がいけなかったのか、とか、そういったことを考えだして、やっぱり無口になる。沈黙が二人をますます遠ざけてしまう。そのことには最近気づいた。でも、どうしていいかわからない。

 彼女はよく泣く。声を上げて泣いたりはさすがにしないけど、涙を流すところを見たのは、1度きりじゃない。僕が泣かしたわけじゃない、と思う。でも、僕が原因の中に入っているときもある、と思う。いや、僕なんだろう、最終的にはきっと。
 僕が原因じゃないときの涙は、とても悲しかった。でも、どうしていいかわからなかった。

 

 僕は嘘をつかれるのが嫌いだ。だから、僕は嘘をつかない。だけど、思ったことを正直に言う、ことは、誰かを傷つけることがあるのだろうか?
 彼女が怒りだしたり、どことなくガッカリしたようなそぶりのとき、僕は彼女を怒らせたり、悲しくさせる言葉を口にしていたのだろうか?
 僕自身は、そんなつもりで言うのじゃなくても、受け取る彼女の受け止め方が、僕の思うところじゃなくても、でもやっぱり悪いのは僕なのかな。

 時々そんなふうに思うことがある。最近は特に。

 『嘘も方便、っていう言葉もあるわ』
 彼女はそう言って、首を傾げた。『それもダメなの?』
 『ダメだね。嘘は嘘だから』

 クルリ、と瞳を回して、ふうん、って小さくつぶやいて、彼女は首を傾げたまま、背中を向けた。腕を組んで、少し考えて、ふ~、とひとつ息をついて、肩をすくめた。
 『わかった。嘘はつかない』
 振り向いて、彼女は僕に言った。


 怒らせて、悲しくさせて、ごめんね、ってメールが届いて。
 そのときに、何がどうしてそうさせたのか僕にはわからなくて。
 そのときに、何をどうしたらよかったのか僕にはわからなくて。

 それでも、彼女が僕に嘘をつくことさえなければ
 そのほかのどんなことでも、乗り越えられると思う


 僕は怒る、という感覚をほとんど感じない。
 いつからそうだったのか、なぜそうなったのかはわからない。
 腹が立つ、というのはあっても、ケンカをするというような“怒り”ではない。例えば、野球の試合を見ていて、ひいきチームのリリーフエースが、自滅のサヨナラ負けを喫したときとか。ものすごく腹が立つ。
 オートバイレースを見ていて、お気に入りのライダーが、嫌いなライダーに接触されてリタイアしたときとか。すごくいいスタートを切れて、このラウンドだけは本当に期待できる!と思って、かなり力入れて見ていたりしたら、こんな腹の立つことはない。

 まァ、でもスポーツなんて、結構そういうのも含めて楽しむものなのかもな、とも思う。

 だけど、彼女みたいに、誰かに対して感情を出して怒る、ケンカする、ということはない。友だちとも、仕事先の人たちとも。僕はきっと“とても穏やかな人”だと思われているだろう。声を荒らげたり、乱暴な動作をしたり、不機嫌そうに黙り込んだり。そういうところを、僕は見せたりしないから。

 そんなことをしたって、しかたない、と思う。意味がない。疲れるだけじゃないか。

 
 ―意味は…あるんだろうな。
 彼女は怒ることで、泣くことで、何かを僕に伝えようとしている。どうでもいい、と思うなら、彼女だって、僕みたいに、怒ったり、泣いたりしないと思う。
 『甘えがよくない方に出ちゃうの』
 そんな言葉をメールに見たことを思い出す。
 彼女だって小さい子どもじゃないんだ。誰の前でも構わず自分の感情をさらけ出しているわけじゃない。自分を理解してもらいたい人の前で。自分の心を、開くことのできる人の前でしか、そういうことはしないはずだ。それ以外の人の前では、彼女はきちんと自分をコントロールする。

 僕に怒る彼女、僕の前で泣く彼女。
 どうしたらいいかわからないことは、たぶんこの先もあるだろう。
 だけど、彼女のその感情が僕だけのものならば、苦くて辛くて飲み込めないような薬でも、僕の乾いた心には水になる。
 誰かに対して、『しかたない』が口グセの、僕の心に。納得してきたつもりだったけど…深く係わり合いになるのが面倒だっただけだったのかもしれない、僕の心に。

 

名前をつけてやる

名前をつけてやる

  • アーティスト: スピッツ, 草野正宗
  • 出版社/メーカー: ユニバーサルJ
  • 発売日: 2002/10/16
  • メディア: CD


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ちえちえ

マンモス広場で8時♪
私もスピッツ大好きです。

えっと、私も似たような事をよくするなぁーと思いながら読みました。
でも、そうです。意味はあるんです。
どうでもいい人に対しては、そこまでしないです・・・だって、ホントに疲れるもの。。
でも、相手は大変ですよね。うん、ちょっと気をつけよう(笑)
by ちえちえ (2006-01-05 00:48) 

柊なお

 ちえちえさん、こんばんは~。
 スピッツ、いいですよねーッ!!! かなり遅咲きのスピッツ狂いで、何だか怖いぐらいの勢いで、去年は1年舞い上がっていました。
 ツーリングアルバムの中に、スピッツものをいくつか発見して、まああああ、何てこと~ッ、と興奮しておりました(赤面) 私も思わぬところでスピッツ、を体験してみたいです!
 旅先でのライヴおすすめです♪ 倉敷までスピッツの旅をしてきたんですが、とても素敵でした。ちなみに春は一人神戸スピッツだったんですよー。ツーリングにプラスでライヴ、最高です!(やりたいなァ~夢)

 婦女子は困らせるぐらい、時にはわがままになっていいんです。わかってくれますよ、素敵男子は。大丈夫、素直にわがままに。いつまでもかわいくvv
 頑張りましょうね~☆
by 柊なお (2006-01-06 01:15) 

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